第19、20日目 骨折り損

「ダンス部は、部員が多すぎて入られないと言われました。すごく、残念です。」


『そんなことがあるのか?!

残念だったな、、、

バレー部来たらいいよ! 』


「昨日書かなかったので、今日書きます。

お父さんの指が骨折しました。痛いと言っていました。

昨日のバレー部の体験おもしろかったです。

うでがちょっと痛かったです。隣のひとたちがすごくうまかったです。先輩ですか? うますぎです、、、

ありがとうございました🖤」


『指?! お父さん、何してて折れたん?

バレー、まぁ気が向いたら入り。』


帰ってくるやいなやソファーにドカッと座ると、日記を読んでいる親父の顔がみるみる曇っていった。


「おいおい、個人情報駄々漏れじゃん。俺の骨折のことまで何書いてんだよ、こいつは」


今、親父の機嫌がすこぶる悪いのは、指が痛いからだ。骨折ぐらいで、こんな親父の個人情報などさほど価値はない。


「にしても、初めてだなぁ。骨折するのなんか。指でこんなに痛いんだから、足や腕のギプスしてる人ってどんだけ大変なんだかなぁ。イテテテ」


親父は、元々は左利きなので咄嗟に出てしまった左の中指を折ってしまったのだ。周りから見れば、「良かったねー。右手じゃなくて」なんて言われることも、イラつかせる原因のようだ。

左手の中指は、板に固定され包帯でぐるぐる巻きになっていて痛々しい。


「それにしても、俺が痛がってた内容の次に楽しそうなクラブ体験の話を書くんじゃねぇよ! 頭どんな構造してんの? “ありがとうございました🖤”のハート、ムカつく!! もう、何なの? 」


何度読んでも、娘が親父の事を心配している言葉は微塵もない。

さらに親父に追い討ちをかけたのは、楽しみにしていた週末アルコール解禁が無くなってしまったことだ。医者から、アルコールを控えるよう言われている。

なんてこった!!


ガックリ肩を落として、ソファーに腰を掛けた。アルコールに似た炭酸ソーダすら口にする気が起きず、今はコーヒー牛乳を飲んでいるところだ。

ヨロヨロと立ち上がると、左手を庇いながら風呂場へ向かった。

次の日、何気に妻へこんな質問してみた。


「“骨が折れる”って、ホント大変だな。その言葉通りだわ。ところで、今まで骨折したことある? 」



「?? あるよ。大学生のとき、車に轢かれて右足首の骨折したでしょ。就職してから、駅の二階の階段から落ちて左足骨折したよ。骨折2回かな? 」


「えー?! 何やってんの? そんなに大怪我して、大丈夫だったん? それも、怪我の理由かなり激しい系だし」


妻のほうが重症、それも両足。

たかだか左手の中指の骨折を妻に同情してもらおうとしていた親父は、心が折れて何も言えなくなってしまった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る