第18日目 かまれた家族 交換日記6月
「今日、うちの犬を散歩させました。私は、その間、野球をしました。最後には、毛虫に刺されて痛かったです。それでも、毛虫が小さかったので、そんなにははれませんでした。よかったです。(≧▽≦)
お母さんは、その後家でハチに刺されました。
痛そうでした。」
『?!毛虫やハチにかまれたら、腫れるやろ?ふつうは。
大丈夫か?お前の一家?!』
「あの時、毛虫に刺されてたのか? 何にも言わなかったな。それにしても、刺されても楽しそうな絵文字。なんだこれ? 相変わらず、天然変なヤツ」
娘の日記を酷評しながらも、毎日読むことは欠かさない。誰も読みたがらない小説を書くことと、娘の日記を盗み読みすることだけが趣味の親父。
本人もなかなかの、悪趣味変なヤツである。
「嫁さん、蜂に刺されて大騒ぎしてたな。2回目だ2回目だとか言って、死ぬ死ぬ! だなんて大袈裟な」
“蜂に2回目刺されると死ぬ”というのを聞いたことがあるだろうか?アナフィラキシー症候群で、蜂に刺されることでアレルギー反応を起こし2回目刺されるとに死亡する可能性があるからであろう。
実際、2回目刺されると死ぬと思っている人は意外と多い。
「蜂に刺されたぐらいで死ぬなら、簡単に殺人事件が起きちまうわ。“殺人事件。密室のホバリング”とか。怖い怖い」
疲れているせいか、考えも雑である。部屋に蜂を忍ばせて妻が死んだとしたら、一番怪しまれるのは親父。
「うん?これって、推理小説になんねぇかな。シャーロック・ホームズの話で、“まだらのヒモ”ってのがあっただろ?あの犯人は……」
そうそう。生き物で殺人事件を起こす推理小説は、もうすでに超有名な作品があるのだ。二番煎じは止めておくのが、吉。
「うわぁ。なんか、アイデア降りてきた!
この推理小説、イケるんじゃね?」
上着を剥ぎ取るように脱いでソファに放り投げ、ネクタイも引きちぎるように外した親父は、原稿用紙に向かってすごい勢いで書きなぐっていく。
時間は深夜、明日は平日。大丈夫なのか?親父!
翌朝、疲れた様子の親父は小さな声で挨拶を交わすとソファに寝転んだ。いつもの親父なら、誰よりも早く朝ごはんを口にしているはずなのに。
「昨日、頑張っちゃってさ。
推理小説書いたから、読んでくんねぇ?」
親父はそう言ってふわわぁとアクビをすると、顔を洗いに洗面所へヨロヨロと向かった。
すると洗面所から「ギャン!」と言う鳴き声の後に、
「痛てぇぇ!」という悲鳴が聞こえた。
どうも、親父がモップ犬の足を思い切り踏んで咬まれてしまったようだ。
家族の中で一番大きな生き物に咬まれたのは、親父だった。
「犬にかまれたー!って、蜂や毛虫はかまねぇよ。
先生、関西人だなー。にしても、いててて!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます