第17日目 “お姉さん”と”お弟“?
「今日は、お弟の誕生日でした。サーティーンのポッピングシャワーのケーキアイスを食べました。私はポッピングシャワーが大好きです。すごく、クリーミーで美味しかったです。
お弟は、10歳なりました。私と、六歳違いです。」
『弟!!弟に丁寧語の“お”を付けるな。
ポッピンシャワー、一番好き。10歳と書いてるのに、六歳のとこは漢数字なの気になるわ。漢字を学べ!!
誕生日おめでとう!!』
《ありがとう》
「最後のたどたどしい《ありがとう》のとこは、うちの“お弟”が書いたようだな。まったく、可愛い字で可愛いことしてんな」
そう、この親父ファミリーには2人の子どもがいたのだ。一人娘と一人息子。
一人娘があまりに濃いキャラクターであるのに反し、一人息子は絵ばかり描いている物静かな性格である。さらに下の階に住んでいる祖父母の家に入り浸っているので、あまり家にいないことが多い。
親父は、この息子が可愛くてしようがない。
なぜなら、幸か不幸か顔が親父に瓜二つ。話に息子が登場しないのは、一緒にいるものの何も話さないキャラだからだ。なにせ、周りがガチャガチャうるさい家族で息子が口を挟む余地はない。
「そういや、おビールどうぞ! とかも間違ってるとか小学校で勉強したよな。なんで、弟に“お”なんか丁寧に付けたんだ? 今日のおビールも、いけますなぁ。なんつって」
親父の機嫌がすこぶるいいのは、今日が週末アルコール解禁デーだからであろう。親父の喉も調子よく、グビグビ鳴っている。
「昨日、“お弟”の誕生日でケーキ買ったんだったな。俺の時代には、アイスケーキなんてもん無かったよな。よく、こんなお洒落なもん考えついたもんだ。お洒落だから“おケーキ”で良くね? なんつって! 」
誰もいないからと言って、つまらないことが次から次から出てくる親父。かなり、親父の酔いがまわってきたようだ。
「“お弟”って、なんで丁寧語にしたのか聞いてみるか?いつも、弟を意地悪してばっかだもんな。丁寧に扱ったことなんか一度もねぇのになぁ。」
うぐいす色の日記帳を元の場所に戻すと、ヒョコヒョコした足取りで風呂場へ向かった。途中、モップ犬の足を踏んで睨まれているのも知らず。
次の日の朝、娘に“お弟”の件を聞いてみた。いつも日記を覗き見していると思われないよう質問に気をつけて、いや覗いているのだが。
「いや、ちょっと目に入ったんだけど日記に書いてた“お弟”って、丁寧語のつもり? 」
「ああ、“弟”の漢字を注意されたこと?
だって、“お母さん、お父さん、お姉さん”だから、“お弟”でしょ?! ふつー」
「そゆうことね。なるほどなぁ、フムフム……」
と変に納得している親父を尻目に、妻が呆れて溜め息混じりで一言。
「じゃあ、“とうと”って読むわけ?? 」
ごもっとも!
「“弟が十になっとう。おめでとう!”(とうとがとうになっとう。おめでとう!)なんつって? 」
娘と妻が、昨日のモップ犬より鋭い目で睨んでいた。
「ありがとうさん」
ポツリと呟いたのは、当事者の“とうと”だった。幸か不幸か、駄洒落のレベルも瓜二つ。
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