第16日目 先生のお誕生日

「お誕生日おめでとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

これからも頑張っていきたいと思います。

最高な一年になったらいいですね。」



『ありがとう!

お前たちが、最高の一年を作ってくれ!!』



はぁーっとため息をつくと、親父は顔を少し赤らめた。恍惚の表情を浮かべながら、グラスに炭酸ジュースを注ぎ入れる。シュワシュワと泡が弾けるのを見た。ゴクリと喉を炭酸が流れていくと、目が覚めたように言った。


「なんだこれ? こんなの娘から言われたら、どこまでも頑張れる! 俺! この一年最高じゃん!!」


いやいや、娘が親父にこの言葉は絶対に言わないであろう。

そして、実際言われたのは先生なのだ。もしかすると、今年の親父の誕生日にこのような言葉が愛娘から貰えることを想像しながら呟く親父。お酒は入っていないのに、ハイテンションになっているようだが、いやいや、立場が違いすぎる。


「俺って、今年何歳になるんだろ? 半世紀ぐらい、生きているよなぁ。嗚呼、俺、ここまでよく頑張って生きてきたわ」


何を言う。戦前生まれの先輩たちは、その2倍近く長い間頑張ってきているのだ。さらに、半世紀頑張れ親父!!

次の日、娘からこんな質問が。


「お父さんって、今年で何歳? 」


え?! 俺の誕生日を意識しているのか?


「あー、あー、半世紀ぐらいだと思ってたけど。計算してみるわ……。待てよ」


昨日まで面倒だと思っていた自分の年齢の計算をしてみた。今年の西暦から生まれた西暦を引いてみた。


「俺、今年で49歳だわ!約半世紀だろ? 」


「いやいや、信長の死んだ年齢と同じなの? なんか、、いや、まいっか」


「なに?もしかして死んでしまうとか、心配してくれてる? 」


「や、大丈夫っしょ!それより、天下統一からほど遠いなって」


と、言うだけ言うと娘はさっさと学校へ向かってしまった。


「天下統一? ほど遠い? 信長と比べて、ほど遠い? あーーー!」


その頃、娘と妻はこんな会話を交わしていた。


「まだ、家庭統一もできてないじゃん。まだまだ死ねないよね」










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