第15日目 有名作曲家の校歌

「今日、音楽の授業で校歌を覚えさせられました。

校歌を覚えるのが、すごく難しかったです。

覚えるのが、すごく苦手です。」



『“覚えさせられました”って、なんか、

すごい強制的に覚えさせられたみたいな言い方になってるわ、これ!!』


今日も疲れて帰ってきた親父は、どっかりとソファに腰をかけたまま目を瞑った。


「♪高山みどり清しく

流れの清い大川のそば

うつくしや我が学舎

教室で光溢れて新しい

青空の雲に憧れて

立ち寄るや~♪」


 親父は、頭に残る校歌を鼻歌まじりに歌ってみた。機嫌良く歌っていたが、途中から親父の顔が曇る。


「立ち寄るや~? って、最後のとこだけどどこの学校に、立ち寄るんだっけな? 学校名が思い出せない。せっかく途中まで覚えてたのに、最後の学校の名前を部分が思い出せないなんてなぁ。覚える意味なくねぇ? あぁ、なんかスッキリしねぇな」



 こんなに不真面目な親父の言動は、真面目な娘の前では聞かせられない。学校の先生は、校歌を覚えさせることに必死になっているというのに。

 親父は、何かを思い出したように呟いた。


「でも、確か俺の行ってた学校の近くには山もなけりゃ、川もなかったぞ。なんだ? この、校歌? 」


 そう、親父が通っていた学校は、小・中・高ともに

市内のオフィス街。この親父、実は街っ子育ちだ。と言っても、地方都市ではあるが。


「周りはビルだったし、山なんて見えねぇもん。川だって。こんな歌、誰が作ったんだ? 全く。校歌の意味ないじゃん」


戦前からある親父の学校は、その当時は山も川も望める場所に建っていたのだが、現在はオフィスビルが立ち並ぶビジネス街へと変貌を遂げたのだった。

後日親父の母校から、150周年記念の冊子が家に届いた。

それを見た娘が、珍しく親父に尋ねた。


「へー、お父さんの行ってた学校、めちゃ都会にあるんだねー! それに、スゴイ人が校歌作ったの?こんな有名な人が作った校歌なら、歌いたいかも」


「は?!」


親父は、初めて知った。

親父が覚えていたこの校歌は、誰もが知っている有名な作曲家が作った校歌だったのだ。


「音楽の教科書にも載ってた人だ! 山田こ○○○だよね? ね、ね、歌ってみてよ!」


反抗期でいつもはほとんど喋ってくれない娘が、こんなにも俺が歌うのを求めている。これは、是非とも娘の期待に答えなければ……よし!!


「♪高山みどり清しく

流れの清い大川のそば

うつくしや我が学舎

教室で光溢れて新しい

青空の雲に憧れて

立ち寄るや~

大樹の陰~♪

やった、最後まで歌えた!! どうだ??」


「?」


どこに立ち寄るかの続きをこの時やっと思い出した親父は、気持ち良く最後まで歌えた。それなのに娘の反応がイマイチなので、親父はキョトンとした。

そして、娘が一言。


「これ、校歌? 」



























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