第13日目 担任、男だった!
「今日、お昼ごはんを噴水広場に行って食べました。
友達4人で食べました。
今日は懇談会があるので、初めて居残り勉強をします。
すごく、御中がすきました。」
『御中→お腹?
どんな間違い方?
毎日、漢字間違えすぎ!(笑)
いい天気だから、いいなぁ。
僕も外で食べたい。』
「あーあ! “僕”だって、マジで男だったんだよ、担任の先生。今さら“僕”って使われても、遅いんだよぉ。今までの胸キュン返して! 」
親父は、娘の学校から帰ってきて早々口から文句が溢れ出た。今にも泣きそうな顔をしている。
「さっきの懇談会で、俺ビックリしたんだわ。毎日、日記読んでたのに、勝手にキレイ系アラサー独身女性の先生を想像しちゃっててさ。聞いてねぇよ、三高のオニイサンじゃん。先生に会えるの、すっごい楽しみにしてたのになぁ。ガッカリ。じゃない、いやいや、ほら、なぁ 」
娘の学校から帰ってきた親父は、誰かに言い訳するように言った。娘と先生の日記から何を期待していたのか、勝手に想像を膨らませていたのは親父だ。
ご存知だろうか?
“三高”とは、高学歴・高身長・高収入のことである。
娘と妻は懇談会帰りに買い物へ行ってしまって、今は1人リビングで寛いでいる親父は、大きな声で独り言を言っている。
会社から帰ってきた時は、寝ている妻と娘に気を遣ってボソボソと呟くところだが、今は昼間で気兼ねする人は誰もいない。
風呂場の入り口で横たわっているモップが、横目でチラリとこちらを見た。
「懇談会は俺が行く、なんて言わなきゃ良かったよなぁ。家で、だらだらできたのに」
そう、いつもは学校の参観、懇談会や面談などは全て妻に任せていた。今回の懇談会だけは初めて親父から参加の意を伝えたら、妻は少々怪しんでいたが快諾したのだ。
「そんで先生さぁ、黒板の端から端まで使って“東大合格!何でも、一番!”って書き始めちゃって、ほんと引くわ。俺の真逆のタイプじゃねぇ? 自信満々のオーラに、飲み込まれそうだった」
娘の日記相手が、男の担任だったというだけなのに親父の落胆ぶりは半端ない。その腹いせに、微塵も悪くない先生をどうにか貶すことばかり考えて、せっかく聞いた大切な話など、親父にとっては馬耳東風だ。
「俺、もう日記の見方が変わっちゃった。読んでたら、あの先生の顔が浮かんじまう。くそっ!」
毎日の密かな楽しみを奪われた親父は、お気に入りのオモチャを取り上げられた子どものようだ。先生には、何の非も罪もない。
それより何よりまずは、「おなかがすいた」を「御中がすいた」(御中おんちゅう)と書いている娘への心配と、そして、お世話になっている先生方に感謝すべきである。
「○○高校 先生方 御中
こんな娘ですが、どうぞ宜しくお願い致します。」
と。
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