第11日目 先生、ありがとうございます!
「先生、誕生日プレゼントありがとうございます。すごく可愛かったです!
先生は、すごく優しいですね!
私は、すごく合宿が楽しかったです。
クラスの人たちをもっと知ることができ、みんながすごく優しいことを知りました。
みんなと仲良くなりたいです。」
『サプライズというモノです。
喜んでもらえて、良かった。
友だちと仲良くなれて良かった!
学習面は、どうでしたか?』
「えっ? えっ? 先生から、何か貰ったん? 」
日記を握りしめた手に力が入り、親父は少し慌てた様子で早口で言った。
焦るのも、そのはず。親父は、娘の誕生日が合宿の日だからと後回しにして、まだプレゼントを買っていない。
「うわぁ。明日でも買いに行ったらバレないと思ってたけど、まさか先生に先越されるとは……先生、ズルいなぁ」
誕生日が既に過ぎているので多少遅れても大丈夫だと思っている時点で、ズルいのは親父である。
「可愛い? って、何だろ? どんな可愛い物、貰ったんだ? 嫁さんは、何をプレゼントしたのかなぁ? 」
この夫婦は個人主義なので、お互いにどんなプレゼントを用意するのか話し合ったことはない。娘の流行りや好みの物をよく知っているのは妻なので、妻に聞くのは流石の親父でもプライドが許さないのだ。
「ま、可愛いもんなら何でもいっか!
どんなモンでも、アイツ喜ぶだろ。」
甘い!
イマドキのJKが、何でも可愛いけりゃ喜ぶわけではないことを親父は知らない。
「ん? なんか、日記に返事があるな。ナニナニ? 」
【バースデーカードを下さり、ありがとうございました。】
『合宿中にお誕生日を迎えたので、お家の方がお祝いできないのも、と思いみんなでお祝いさせて頂きました。
喜んで頂けて、良かったです!』
黒いペンの、明らかに字体の違う文字で書かれていた。お礼を書いたのは、言わずもがな妻である。さらに、先生からの返事も書かれていた。
「ははぁん、なるほど。バースデーカードね! 王道だな、先生も 」
簡単に言ってはいるが、じっと立ち止まって考えていた親父は結局何のアイデアも浮かばす、頭をボリボリと掻きむしった。
「なんか、この先生の行動がイケてすぎ。合宿中にクラスメートがアイツの誕生日のお祝いするなんて、アメリカ映画みたいなノリな。ハッピーバースデー、イェーイ! みたいな」
この令和の時代に、昭和に観たアメリカ映画のバースデーパーティーの場面を想像しつつ、本当は娘が羨ましい親父。
「なんか頭、痒いなぁ。早く風呂入って、寝よ。プレゼント、明日は必ず用意しないとなぁ。俺だって、サプライズぐらい出来らぁな」
そう言うと、頭を両手でガシガシと掻き混ぜた。大股でドシドシと風呂場へ歩いて行った親父の背中は、焦りと嫉妬が滲んでいた。
「お金」
次の朝、遠回しに娘の欲しい物を聞いてみた親父のサプライズ計画は、この一言で見事に打ち砕かれたのだ。
娘の本当に欲しいプレゼントはあまりに可愛くないものだったので、
親父のほうがサプライズしたのだった。
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