第10日目 娘のアオハル
「 ①今日の反省は晩御飯を残してしまったから、次はできる限り食べたいです。
②今日はお風呂に短く入って、学習部屋6時13分ぐらいに着きました。私は5分前行動ができました。
③英語の単語の復習。忘れかけていた単語の書き方の再確認。
④今日は、楽しかったです!」
『 学習部屋に早く着いてえらい。
なるほど単語の書き方も大切。』
片手にビールを持った親父は上機嫌になって、日記を読んでいる。
1日ぶりに娘が合宿から帰ってきた上に、週末は酒の解禁だ。
親父の気分が昂るのも、無理はない。
「うわぁ、なんか青春やってるって感じだなぁ。アオハルってヤツか! なんか知らんが、楽しそうなヤツ」
どう読んでも、一日中勉強合宿という内容であった。どこにも青春らしさがなく、アオハルなどとはかけ離れているように思える。
本日土曜日は、待ちに待ったお酒の解禁日。親父は、冷蔵庫の中から新しいビールを取り出してプシッと開けるや否やグビグビ喉を鳴らした。
親父からすると、お酒を飲んでいたらどんなことでも青春=楽しいことなのだ。
「合宿中の一番の反省点が、ご飯を残したことなのか?残すことの罪悪感より、食べ物に対する執着を感じるなぁ。よっぽど、食べきりたかったんだなぁ? 」
今日はいつにも増して饒舌になり、やけにビールが進む。
「なにより、無事に帰ってきて良かったなぁ。さて、お土産は何だろう? 」
無事に帰ってきたことと、お土産とは矛盾している。無事に帰ってきたことがお土産だ、とは言えないのがこの親父だから。
「北陸に行ったんだから、海の幸的なお土産か?ま、明日が楽しみだ」
明日も、もちろん酒の飲める日曜日。海の幸のお土産をツマミにして、ビールを片手にプハーと考えただけでも喉が鳴る。
「今日はほどほどにして、明日しっかり飲んでやろう! あぁ、楽しみ」
娘が帰ってきたことは、もうすでに忘れているかのような親父であった。
足元はいつもよりおぼつかないものの、トコトコと嬉しそうな足取りで風呂場へ向かった。
「は? お土産? 勉強ばっかしてて、海も見てませんけど? 」
勉強合宿だというのにとぼけたことを言った親父は、娘の白い目を横目に少し肩を落とした。
北陸に行って海も見ず勉強していた娘の、自分にはない真面目さが少し羨ましく思えた。
ツマミの話など、どこ吹く風。
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