第4日目 一発勝負!

「今日は美術で 靴を書きました。

最初から油性ペンで書かなければならなかったのですごく難しかったです。

私はシャーペンで書いていいと思ったので、びっくりしました。」


『時には人生、一発勝負も必要だということです!

絵を“描く”と文字を“書く”は、使い分けて下さい。』


 いつものように帰宅した親父は、ソファーに座って真っ先に日記を読んでいる。

 いつもは疲れて帰ってきたら、何もしないでソファーでボーっとしているのが日課だったが、最近の親父は違う。


「一発勝負ねぇ。前向きな担任だなぁ」


 毎日この奇妙な交換日記を読んでいると、書いている人間の人となりがだんだん分かってくるようだ。書いている人の性格が少し分かってきたことで、娘には一抹の不安を覚えることもあるが、担任は良さそうな先生のようで親父は安心した。


「勝負も必要だとか言われたらプレッシャーだな、俺なら。一発勝負で、成功してきたんだろうなぁ。この先生」


 安心した反面、成功者に対してどこか悪いところを見つけてケチを付けたくなるのが人間というものだ。親父は、そこは裏切らない。


「一発勝負なんか、出来ればしたくねぇなぁ。おお、怖っ。百発勝負しても、一回も成功しねぇ気がするもんな」


 既にこの担任が書いた文章の勢いにも負けてしまった親父は、少し肩を落とした。


「それにしても、まぁた漢字間違ってるな。日記はシャーペンで書いてるのに、消した形跡なしだし。一発勝負みたいな日記」


 一発勝負とはそんなところで使うものなのかとは思うが、毎回書き直した形跡がないので彼女の一発勝負なのかもしれない。

 娘の間違い漢字だらけの日記から変な勇気を貰った親父は、


「成功しなくても、いいか。成功する人か失敗する人しかいないなら、失敗する人間だって世の中には必要なはずだ」

 

自分なりのポジティブな考えで少し元気になった。


「俺も、意外に前向きだな。よし!」


 自分は失敗することを前提にしているのに、なぜか前向きになった気がする親父であった。

 こうして気合いを入れた親父は、どっしりとした足取りで風呂場へ向かった。


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