第3日目 腕時計

「今日の数学のテストは難しかったです。

時計が電気と重なっていて時計が見えなかったので時間が最後でなくなりました。

なので、最後まで出来ませんでした。

すごい悪い点数を取りました。がっかりです。」


『なるほど、光の当たり具合で見えなかったのですね。

腕時計などがあると、移動教室や集合に便利です!

その反省を次につなげて、頑張って行こう!!』


 いつも夜遅く疲れて帰ってくる親父にとって、娘と担任がしている交換日記を読むことが毎日の楽しみになってきた。

 玄関を開けるやいなや、まっすぐに足がリビングへ向かう。そして、以前からいたかのように当たり前に置かれている薄緑色のノートに目を通す。


「ふむ、腕時計か。でも、確か入学祝に嫁さんがプレゼントしてたよなぁ。あれ、付けて行ってないのか?」

 

一生懸命に思い出そうとしたものの、朝の身支度で娘が時計をつけているかどうかなど記憶になく思い出せるはずもなかった。


「あいつが、どんな格好で学校行ってるのかも知らないなぁ。制服だって、俺が出掛けてから着替えるから見たことないし。セーラー服? ブレザー? どっちだっけ?」


 腕時計どころか、自分の娘の制服がセーラー服かブレザーかも分からない親父は、娘に対してあまりの関心のなさに少し申し訳なく思った。

 もし制服を着ている娘とすれ違っても、この親父ならきっと気付かず通りすぎてしまうだろう。


「あ、玄関に!」


 思い出したのだ。玄関のコートフックに、娘の制服が吊るされているのを。

 吊るされている娘の制服をしげしげと眺めると、


「俺も、見てぇなぁ。着てるところ」


とセーラー服かブレザーか問題がはっきりしたことよりも、何かもの悲しさを覚えたのだった。

 お風呂への足取りは、ヒタヒタと静かな音であった。


「それって、セクハラだよ?」

 

 娘の一言に何も言い返せない親父だった。

次の日の朝、親父が娘に何と言ったのか想像がつくだろうか。


 

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