第53話

 マナカとのデートは、緊張感があまりなくて、肩肘かたひじを張らずにすむから助かった。

 きっとテツヤに仲良しの妹がいたら、こんな感じかもしれない。


「テツヤくん、次はあっちを見ましょうよ!」


 向こうから積極的に手をつないでくる。

 テツヤはあまり主張しないタイプだから、これ食べたい、あそこ行きたい、と言ってくれるマナカとは相性がいいのかもしれない。


 挙げ句の果てには、


「私に合わせてくれるなんて、テツヤくん、優しいですね」


 と愛嬌たっぷりの笑顔をくれる。


 いや、ちょっと違うんだ!

 むしろ、どんどん主張してくれるマナカの方が優しいのでは?


 あれ……?

 マナカとの相性、抜群なのかな?


「ねぇ、テツヤくんって、お姉ちゃんのこと、そんなに好きなのですか?」

「随分、ストレートな質問だな……」

「好きなのは知っていますが、どのくらい好きなのか、知りません」


 返事に困ったテツヤは、ふむ、といって腕組みした。


「過去に出会った女性の中で一番好きってことですか? もうお姉ちゃんより素敵な女性には出会わないってことですか?」

「どうだろう……レイさんより素敵な女性か」

「ほらほら、目の前にいるじゃないですか、候補が」


 マナカは真面目くさったように自分を指さす。

 その発想はおもしろいな、と思ったテツヤはぷっと吹き出した。


「ひっど〜い! 人が真剣に質問しているのに!」

「いやいや、半分以上俺のことをからかって楽しんでいるでしょう」

「え〜、信じられないな〜」


 マナカはふくれっ面になったけれども、そこが演技の限界なのか、ぷっと笑った。


「あっはっは! あと一歩だったのに! 失敗しちゃった!」

「ほら、油断ならないんだから」

「でも、本当だよ」


 マナカは紙コップの水に口をつける。


「私のこと、お姉ちゃんより好きになってくれないかな〜」

「その心は?」

「だって1個くらいお姉ちゃんに勝ちたいでしょう」

「ああ……」


 天使のような顔して、小悪魔みたいなことをいう。

 こういうギャップがマナカの魅力なのだろう。


「そうだ。さっさとデザートを食べましょうよ」

「忘れていた」


 ここはプリン屋である。

 手つかずの卵プリンが2つ、テーブルの上に置かれている。


「お姉ちゃんの話の続きです。どういうところが好きなのですか?」

「あれだよ」


 テツヤは人差し指を立てた。


「レイさんは学校だと全然笑わない。でも、俺の前だと笑ってくれる。そういう落差に男は弱い。というか、俺としてはグッとくる部分がある」

「ふむふむ」


 するとマナカは指を目の横に当てて、キツネみたいに吊り上げた。


「だったら、私もテツヤくんの前でしか笑わないようにします」

「いやいや、無理があるでしょう」

「もう……いじわる」


 笑いすぎた反動なのか、マナカは目元をゴシゴシしている。


「マナカさんは今のキャラでいいよ。この世に2人も織部レイはいらない」

「この世に2人も織部レイはいらない……いいセリフですね」


 マナカに褒められると、何でもいいセリフに思えるから不思議だ。

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