第52話

 次の休日。


 テツヤとマナカは電車で隣町までやってきた。

 かつて城下町として栄えた場所で、歴史ある神社仏閣とか、昔ながらのお店がたくさん残っている。


「出ましたよ! 寛永かんえい19年創業! テツヤくんに問題です! 寛永っていつでしょうか⁉︎」

「いつだっけ? 200年くらい前?」

「ぶっぶ〜」


 マナカは手でバツ印をつくったあと、スマホをポチポチしている。


「400年くらい前なのです!」

「お互いに知らなかったじゃん」


 現在が朝の9時くらい。

 早いお店だと営業をスタートさせているし、テツヤのような観光客の姿もチラホラ見かける。


「テツヤくんって、この城下町、来たことありますか?」

「どうかな。遠足で1回訪れた気がするけれども、大して覚えていないかも」

「私も家族で1回来たきりです!」


 朝からハイテンションのマナカを、テツヤは保護者のような目で見守る。


 今日は晴れ。

 恵まれたコンディションに比例するようにマナカは元気だ。

 でも、ひとたび雨が降れば、気だるさに支配されて、まともに出歩く気がしないらしい。


 気をつけないと。

 午後の降水確率は30%。

 もしかしたら小雨が降るかも。


「なあ、レイさん」


 そう呼びかけて猛省もうせいした。

 デート開始早々、女の子の名前を間違えるという、わりと初歩的な地雷を踏んでしまった。


「テ〜ツ〜ヤ〜く〜ん〜」

「ごめん、ごめんって」


 もっと情けない話をすると、呼び間違えるのはすでに3回目。


 しかし、言い訳させてほしい。

 初デートしたとき、レイは黒ジャケットを着ており、その日のレイとまったく同じ服装をマナカはしているのだ。


 双子だから、洋服とかくつのサイズも一緒。

 その点については理解しているが、黒ジャケット=レイ、のイメージがこびりついているテツヤとしては、紛らわしいことこの上ない。


「だからといって、罪深い行為には違いありません。ちゃんとペナルティを受けてもらいますよ」

「わかった、わかった」


 念押ししてくるマナカを、テツヤは両方の手でなだめておく。


 ペナルティ……。

 名前を呼び間違えるたび、罰として食べ物を買い与えるという約束。

 マナカがテツヤの名前を呼び間違えることは、ほぼありえないので、実質、テツヤだけに課せられたルールといえる。


「もしかして、わざとレイさんの服を借りてきた?」

「うふふ、どうかしら」

「あっ⁉︎ レイさんの口調を真似たな⁉︎」


 マナカは、にひひ、と笑って歩き出す。

 猫みたいに気ままな背中をテツヤは追いかけた。


「あれが食べたいです!」


 そういって指差してきたのは、みたらし団子。

 店先で焼いて砂糖醤油のタレに漬けたやつを、1本50円で売っている。

 テツヤは2本買って、片方をマナカに差し出した。


「手を汚すだろうから」


 ウェットティッシュも1枚渡しておく。


「おおっ! テツヤくん、用意がいい!」

「そうかな?」

「はい! ウェットティッシュを即座に出せる男性はモテますよ、間違いなく!」

「なるほど」


 マナカの笑顔はピュアすぎて、50円なんかじゃ元が取れてお釣りがくるくらいだった。




《作者コメント:2021/07/09》

明日の更新はお休みします。

次回は7月11日を予定しています。

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