第50話

「ビビッときた、か」


 母に相談したあと、テツヤはお風呂に入っていた。

 湯につかって深呼吸でもすれば、頭がすっきりするかと思ったが、まったくの期待外れらしい。


 どうかしている。

 今日のテツヤは。

 レイとかマナカとか、いくら悩んだところで、答えなんか出ないのに。


 お風呂から上がり牛乳を飲んだ。

 携帯の通知に気づく。


「これは……」


『フレンド申請が届いています』

『今すぐチェックしましょう!』


 システムの文言に釣られてアプリを開く。


 相手はマナカだった。

 テツヤが『許可する』をタップすると、友だちが1名増えた。


 そうか。

 連絡先にマナカの名前がなかったのか。

 レイのアカウントを介して普通にやり取りしてきたから、登録していないこと自体を忘れていた。


 とりあえずテツヤからメッセージを送る。


『フレンド申請、ありがとう』


 すぐに返信がきた。


『こちらこそ!』

『今日はありがとうございました!』

『お弁当、おいしかったです!』


『疲れてない?』

『けっこう歩いたけど大丈夫?』


『はい』

『お風呂に入ったら元気になりました』


『奇遇だね』

『俺もさっき風呂から出たところ』

『だから元気だよ』


 レイさんは?

 そう入力して、すぐに消した。

 マナカにレイのことを質問してどうする、アホか、俺は。


『学校の宿題とか大丈夫?』

『今日はもう遅いけれども……』


 ポチッと送信。


『はい、大丈夫ですよ』

『そもそも、私は通信制の高校ですし』

『明日は自宅学習の予定です』


『へぇ〜』

『マナカさんは通信なんだ』


 なんで一般じゃなくて通信?

 とか、訊いたら気まずくなるかな?


 テツヤが文面に迷っていると、向こうからメッセージが送られてきた。


『通信は楽しいですよ』

『ちゃんと自己管理できる人なら……』

『自由に遊べる時間が増えます!』


『分からない問題とかは?』

『わざわざ学校へいって質問するの?』


『私の場合、お姉ちゃんがいますから……』

『訊けば一発です!』


『なるほど』


『レイ先生です!』


『厳しそうだな……』


『ああ見えて、意外に教えるの上手いです』

『きっと教師に向いていると思います』

『あ、本人には秘密ですよ』


 テツヤは携帯を握りしめたまま笑った。


『マナカさんって自分の希望で通信に決めたの?』


『そうです』

『私、体があまり丈夫じゃなくて……』

『今日みたいに晴れの日だったらいいのですが……』

『大雨の日とか、家の中でぐったりしています』


『あ、そうなんだ』

『太陽の光に弱くて、晴れの日に元気ない人なら……』

『テレビで観たことあるけれども……』

『その逆みたいな感じかな?』


『おそらく……』

『お医者さんに診てもらって』

『昔よりはよくなりましたが……』


 そうだったのか。

 テツヤがマナカに告白した日も、空はよく晴れていたな。

 そしてマナカは遠い空を観察していた。


『気圧に弱いのかな?』

『だったら、山登りとかキツそうだよね』


『死にますね、たぶん笑』


 なんか安心した。

 マナカが自分のことを打ち明けてくれて素直に嬉しい。


『テツヤくん、昔の思い出を語ってくれたので』

『私も何か話さないとアンフェアだと思いました』


『昔の思い出?』

『ああ、救急車のやつか』


『そうです』

『あの時は雨上がりでしたよね』

『そんなに気分が悪くなかったので……』

『お姉ちゃんに頼んでお買い物にいきました』


『そうだったのか』


『テツヤくんの役に立てたので……』

『私は大変嬉しいです!』


 どんだけいい子なんだよ。

 テツヤはため息をついて、携帯の角で頭をコンコンした。

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