第38話
出し抜けな質問をするのに、とっておきの前置きがある。
「レイさん、つかぬことを訊くけれども……」
君たちのお母さんって?
どんな人なの?
答えにくい質問をしたつもりだが、
「離婚して家を出ていったわよ。ずっと昔に。金遣いが荒くて、自己中心的な、ダメ人間寄りのダメ人間ね」
レイは素直に打ち明けてくれた。
そんな予感がしたのは織部家を訪問したとき。
レイ、マナカ、父と思わしき靴は玄関にあったのに、母と思しき靴はなかった。
キッチンの食器も3組セットの物が目についた。
亡くなったか。
あるいは離婚したか。
普通に考えたら後者の可能性が大きいはず。
「どうしたのよ? まさか……」
「まさかというか、子持ちの男女が、親密そうにショッピングしていたら、そういう想像をするよね、普通」
レイは納得しかねるように唇を噛む。
「これなんか、どうです?」
「どれ……」
テツヤの母が勧めたボーダー柄のノートを、レイの父は興味深そうに見つめている。
どう考えても、最近知り合ったばかりとは思えない。
「ふ〜ん、あれがテツヤくんのお母さんか。人当たりがよくて、優しそうな人ね」
「そうだね。俺に似ず、周りとの調和を大切にする人だね」
「何歳なの?」
母の生年月日を教えた。
「レイさんのお父さんは?」
驚いたことに互いの親は同い年だった。
これはますます怪しい。
2人のあいだに再婚話が持ち上がっているのでは?
「レイさんのお父さん、社長だろう。いくらでも相手が見つかりそうなのに、なんで再婚しなかったんだろう」
「さあ……私たちのお母さんで
「そんなものかな」
レイがキッと
「それをいったら、テツヤくんのお母さんは、なんで再婚しなかったのよ? この10年くらい、いくらでもチャンスはあったでしょう。旦那さんを亡くしたのだから、うちの親と違って、本人に落ち度があるわけじゃないでしょう」
おっしゃる通り。
息子がいうのも何だが、母は気立が良くて、そこそこ器量良しである。
父が亡くなってから数年間は、親戚がたくさん再婚話を持ってきた。
母の性格からして、周りに世話を焼かれたくないタチではあるが。
「あっちも見ますか?」
「そうですね」
仲良し夫婦にしか見えない男女は、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
まずい⁉︎
身をかがめたまま、お店の逆サイドへ移動する。
もう一度レイの父を見た。
ぱっと見の印象だが、目つきが柔らかくて、優しそうなお父さんに見える。
着ている服だって、中年にしては趣味がいい方。
「まさか、結城さん家の息子さんが、うちの娘と同じ高校だったなんて」
テツヤたちの話が出てきた。
「そうなんですよ。びっくりです。うちの息子は普通科ですが、特進クラスのレイさんと面識があるらしく」
「レイは引っ込み思案でして。勉強だけはピカイチなのですが、もっと周りと交流するよう、担任の先生から苦言を呈されました。はっはっは……」
グシャリ!
怒りのあまり、レイが手近にあった商品を握りつぶした。
かわいいキャラクターの顔が
こりゃ、弁償だな。
「あの親父……余計なことを……」
「まあまあ、事実じゃないか」
「あんたの舌、引っこ抜くわよ」
「怖い怖い」
どっちだろう。
テツヤの母とレイの父は交際しているのだろうか?
「楽しそうだよな、あの2人」
「そうね。あんなに楽しそうな父を見るの、3年ぶりね」
「マジで?」
「マジ」
あと2年したらテツヤもレイも大学生になる。
もしかしたら、地元を離れるかもしれない。
同居している家族が減って寂しい思いをするのなら、似たような境遇の者同士、さっさと再婚しちゃってもいい気がする。
というか、息子に遠慮してほしくない、というのが本音。
再婚すると戸籍が1つにまとまる。
具体的には、織部家の戸籍に、テツヤと母がお邪魔する。
「これは一大事だよ、レイさん」
「同感ね、テツヤくん」
テツヤ、レイ、マナカは義兄妹になる。
学校で死ぬほど冷やかされるのは火を見るよりも明らか。
「え〜、いいじゃないですか。家族が増えるのなら。私としてはウェルカムです」
「マナカは黙りなさい」
ずっと黙っていたマナカが口を開いたけれども、レイに秒で
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