第31話

 テツヤに声をかけてきたのは、クラスメイトの3人組だった。

 レイと付き合うようになってから、定期的に声をかけてくる人たち。


「うぉ⁉︎」

「すげぇ⁉︎」

「本物の織部さんがいる⁉︎」


 おいおい。

 ショッピングモールで大声出すなよ。

 テツヤはわざと不快そうな顔をして3人組に圧をかけておいた。


「やめろって。俺たちはせっかくのデート中なんだ」

「おう……悪い……」

「水をさしたな」

「すまん」


 とりあえずマナカを背中に隠した。

 いくら天真てんしん爛漫らんまんなマナカとはいえ、3人組から注目されるのは緊張するらしく、テツヤの服をぎゅっとつかんでくる。


 ここは乗り切らないと。

 マナカのためにも、レイのためにも。

 話をややこしくするのは避けたいところ。


「にしても、織部さんの私服、かわいいな」

「そうそう、学校とは雰囲気が違うっていうか」

「なんか丸い? 刺々しくない? これが結城の実力か」


 勘違いされちゃっている。

 かえって好都合だ。


「なあ! 織部さん! けっきょく結城のどんなところにれたんだよ⁉︎」

「おい、こら、恥ずかしい質問するなよ!」


 え〜と。

 マナカが返事にまごつく。

 照れながらうつむいたあと


「玉子焼き」


 かろうじて聞こえるレベルの声で返した。


「うぉ⁉︎ かわいい⁉︎」

「あの氷帝様が照れている⁉︎」

「マジかよ⁉︎ 学校とは別人じゃねえか⁉︎ 天使か⁉︎」


 まあね。

 レイじゃなくてマナカだしね。

 しかし、理由に玉子焼きを持ってくるなんて、子どもっぽいというか、愛嬌たっぷりというか、いじらしいというか。


「玉子焼きっていったよな⁉︎」

「つまり、氷帝様の胃袋を攻略したと⁉︎」

「やるな、結城! お前はできるやつだ!」


 男子たちの迫力に気後れしたマナカは、体をさらに密着させてきた。


 もきゅ。

 やわらかい胸がテツヤの背中に触れる。

 マナカの緊張が伝わってくるみたいで、とても罪な気持ちになった。


「ほら、いったいった。織部さんが嫌がっているだろう」

「へいへい」

「じゃあな〜」

「このリア充ヤロー」


 解放されてひと安心。

 肩の荷が下りたテツヤは、後ろを振り返り、もう大丈夫だよ、と笑いかけた。


「ごめんね、マナカさん、変なことに巻きこんじゃって」

「…………」

「あれ? マナカさん?」

「お姉ちゃん、やっぱり学校だと大注目なのですね」

「まあね。あのルックスであの性格だからね。とにかく目立つよ」

「びっくりしました。結城くんのクラスメイトの反応。ぐいぐい迫ってくるから」


 マナカは髪の毛を指に引っかけてクルクルする。

 時々レイがやる仕草しぐさであり、姉妹の血のつながりを感じてしまう。


「な〜んかズルいな、お姉ちゃんは」

「どうして?」

「性格がキツいんだけれども、逆にモテるっていう部分が……」

「そうかな。もしマナカさんがうちの学校にいたら、お姉さん以上の人気者になると思うぜ」

「どうでしょうか。彼らの反応を見る限り、お姉ちゃんの魅力は氷帝の部分にあると思うのです」


 マナカがじぃ〜と上目遣いで見つめてくる。


「結城くんも同じじゃないですか? お姉ちゃんがあんな性格だから、好きになったんじゃないですか?」

「ああ……そうかもしれない。ミステリアスっていうか、謎な部分は大きいよね」

「やっぱり。結城くんはお姉ちゃんの不器用なところ、好きになっちゃいそう」


 この発言にはドキッとした。

 数分前にレイへ伝えたことだから。


 マナカはやけに鋭い。

 レイとは違った意味で、本質を突いてくる。


「もしかして図星?」

「さあ、なんのことかな」

「まあ、いいや。結城くんとお姉ちゃんの問題だし」


 マナカはテツヤの腕をつかむと、わざと胸に押しつけてきた。


「いまは私が結城くんのカノジョですよね? お姉ちゃんもいないし。だったら、カノジョのふりをする義務がありますよね」

「それ、俺のことからかっている?」

「はい、からかっています」


 満面の笑みを返された。

 織部の双子姉妹は、姉も妹も一筋縄じゃいかないらしい。

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