第29話

 デート、デート、初デート。

 ガチガチに緊張するかと思いきや、テツヤはわりと平静だった。


 失うものがないから。

 レイはニセモノの恋人なわけだし、このデートで失敗したら悲しい! という気負いがないせいだろう。


 純粋にレイとマナカが楽しんでくれたら嬉しい。

 そんなことを考えながら、約束のショッピングモールに到着した。


 待ち合わせまで20分ある。

 喉がかわいたと思い、ストレートティーを買ってちびちび飲んでいると、携帯が揺れた。

 メッセージの送り主はレイだった。


『モールに着きました!』

『待ち合わせポイントへ向かいます!』


 このハイテンション。

 作文しているのはマナカの方だな。


『はいよ』

『俺はちょうど着いたところ』

『お手洗いをすませて待っています』


 ポチッと送信する。

 テツヤは空になった缶をゴミ箱に捨ててから、トイレへ向かった。


 鏡を見るのって、なんとなく苦手だ。

 テツヤの場合、人と視線を合わせるのがちょっと苦手で、鏡に映っている自分と目を合わせるのも苦手なのだと思う。


「…………」


 髪の毛がぺったんこになっている。

 原付のヘルメットをかぶったせいか。

 ワックス付けたの、思いっきり裏目に出たな。


「結城くん、それ、ワックス付けているの? ヘルメットをかぶるのに? え? もしかして、笑いを取りにきたとか?」


 レイと会うなりボロクソにけなされた。

 ちなみに、今日のレイは黒ジャケットを着ており、社会人のような大人っぽさがある。


「こら、お姉ちゃん。口が悪すぎるでしょう。お姉ちゃんだって、服選び、さんざん迷っていたくせに」

「ちょっとマナカ……黙りなさい」

「いいえ、黙りません」


 妹のマナカは、オレンジ色のワンピースの上から白色カーディガンを羽織っている。

 こっちは年相応というファッションで普通にかわいい。


「ほらほら、結城くん、お姉ちゃんの服装を褒めちゃってください」

「う〜ん……そうだな……」


 やべっ。

 女子の服装とか、褒めたことない。


「今日のレイさん、仕事ができる女って感じだね」

「へぇ、それは悪くないワードセンスね。素直にありがとう」


 満点をもらった。

 マナカだって、小さくガッツポーズしている。


「そうだ! 私、ちょっとお手洗いにいってきます! お姉ちゃんと結城くん、テキトーにおしゃべりして待っていてください!」


 マナカが露骨ろこつな理由で場を外したので、2人きりになってしまった。


「結城くん、1つ確認なのだけれども……」

「どうしたの?」

「あなたが告白したの、私じゃなくてマナカよね?」

「ん? 物理的にってこと? そうだね。レイさんの皮をかぶったマナカさんに告白したね」

「ということは、本来付き合うべきは結城くんとマナカじゃないかしら?」


 テツヤは、はぁ⁉︎ と頓狂とんきょうな声をあげた。


「昨日のマナカさんの話、聞いただろう。マナカさんが俺からの告白をOKしたのは、レイさん、君が学校でボッチだから、話し相手ができればという理由で……」

「それはそうだけれども……」


 レイは指先で髪をクルクルする。


「結城くんの人間性に目をつけたのは、私じゃなくてマナカでしょう。それに、私と結城くんより、マナカと結城くんの方が、相性だっていいのでは?」

「それって、おしゃべりが弾むっていう意味? たしかに、マナカさんの方が話は盛り上がるね。でも、それ、相性の問題っていうより、レイさんとマナカさんの個性の問題じゃないかな?」

「そうかしら?」

「だと思うよ」

「…………」

「……」


 おい⁉︎

 なんだ⁉︎ この沈黙⁉︎

 破局秒読みの男女みたいじゃねえか。


「レイさんはいいのかよ?」

「えっ? どういうこと?」

「俺とマナカさんが付き合ったとするだろう。そもそも、マナカさんが俺のこと好きなのか、知らんけれども……。最終的にそうなればいいと願っているの?」

「…………」


 レイが2度目の沈黙におちいる。

 なにも考えとらんのかい⁉︎ とテツヤは内心で突っ込む。


「それは抵抗あるわね。なんか、私がマナカに負けたみたいで。でも……でも……でも……」

「まさか、女としての魅力はマナカさんの方が上とか、超絶面倒くさいこと、レイさんに限っていわないよな?」

「うっ……」


 指先ツンツンしていたレイがフリーズする。

 氷帝でも石化することはあるらしい。


「恥ずかしいから一度しかいわないけどね」

「なによ?」

「俺はレイさんの不器用なところ、好きなんだよ。自分の利益とかは度外視だろう。マナカ、マナカ、マナカ……さっきからそればかり。自己中心的かと思いきや、自分のことは大切にしない。それが冷たい性格となって表れている」

「なにを言い出すのかと思いきや……ごちゃごちゃと長ったらしい……」

「つまり、本当のレイさんを知りたい」

「うっ……」


 ぽんっ!

 爆発音が聞こえそうなほどレイは一気に赤面した。

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