第27話

 ゲームをやっていると、1時間が過ぎるのなんて、あっという間だった。


 レイもマナカも楽しそうだ。

「こいつ……」「やったわね」「えっ? うそ?」

 レイの表情が百面相みたいにコロコロ変わって楽しかった。


 マナカは1回だけ本気の本気を出してくれた。


 強すぎ……。

 まったく歯が立たなくて、苦笑いするしかなかった。


 そしてゲーム終了後。


「ありがとうございます、結城さん! 実はもう1個、お願いしたいことがあるのですけど〜」


 マナカが露骨ろこつこびを売ってくる。


「やめなさい、厚かましい」


 レイは注意したけれども、テツヤはまあまあとなだめた。


「聞くだけ聞くよ。それで? 俺に頼みたいことって?」

「明日、映画を観にいきたいのです! 近所のショッピングモールです! タダ券が3枚あるので、一緒にいきませんか⁉︎」

「3枚? レイさんも来るってこと?」


 テツヤが横を向くと、レイは嫌そうな顔をする。


「ちょっと、マナカ! ショッピングモールなんて、絶対に学校の関係者に会うでしょうが⁉︎ 私を殺す気かしら⁉︎」

「え〜、別にいいじゃないですか〜。悪いことをするわけじゃないんだし〜」

「ダメダメダメ! 絶対にダメ! 私はいかない!」

「えっ……それじゃ……」


 マナカはテツヤの腕をつかんでくる。

 恋人同士がやるように。


「私は結城くんと2人で出かけてきま〜す!」

「ッ……⁉︎」


 レイに衝撃が走った。

 大好きな魚を横取りされた猫みたいに。


「お姉ちゃんはお留守番していなよ」

「…………それ、本気でいってる?」

「結城くんは私が借りるから」

「へぇ〜へぇ〜へぇ〜」


 これは願ってもない展開だ。

 女の子から映画館デートに誘われた。

 しかも相手はスーパー天使、愛帝、パーフェクト美少女のマナカ。

 断るなんて選択肢、ないだろう。


「レイさんの言い分はもっともだ。学校の関係者に見つかったら面倒くさいよね。でも、大丈夫。マナカさんは俺が責任をもって送り迎えするから。その点は安心してくれ」

「ちょっと、結城くん⁉︎ マナカと2人で出かける気⁉︎」

「だって、レイさんは嫌なんだろう?」

「うぐっ……」


 よしよし。

 挑発が効いている。

 レイの性格からして、好きにしなさい! とはならないだろう。


「……わか……よ……つい……でしょ」

「え? なんて?」

「わかったわよ⁉︎ ついていけばいいんでしょ⁉︎」


 やったね。

 レイを屈服させることに成功したテツヤとマナカは顔を見合わせる。


 マナカはタダ券を見せてくれた。


「観られるタイトルが決まっているのですよ。恋愛物です。あ、うちのお姉ちゃん、意外とラブロマンス好きなので」

「そうなわけないでしょう! 捏造ねつぞうしないで!」


 怒ったレイがマナカの頬っぺたをグイグイする。


「あ〜ん! いた〜い!」

「ホント調子に乗りやすいんだから!」


 やり取りがおもしろくて、テツヤは吹き出した。


「ほらほら、結城くんも帰った帰った。男の人を家に入れるって、お父さんには内緒なの。もうすぐ帰ってくる。バレたら、うちの親、ブチ切れるわよ」

「そりゃ、大変だ」


 テツヤはさっさと荷物をまとめた。

 玄関のところでくついていると、レイが見送りにきてくれた。


「本当にいいの? レイさん、映画館みたいに人が密集するところ、苦手じゃない?」

「別にいいわよ。あんな顔されたら、マナカの楽しみ、潰せないでしょう」

「へぇ〜」


 バイバイと手を振ってから、はじめての織部家をあとにした。

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