第26話

「実は、私もマナカに勝つための作戦を思いついたの」

「へぇ、レイさんも。どんな内容?」


 レイは悪役みたいにニヤリと笑った。


「マナカが操作しているキャラクター、あれを私たちも選ぶのよ。スペックが同じ相手となら、戦いにくいでしょう」

「ああ……双子らしいアイディアだ」


 格ゲーでいうところのミラーマッチ。

 キャラごとの相性差がなくなるから、五分五分の殴り合いになりやすい。


「目には目を、歯には歯を、牙には牙を。悪くない作戦でしょう」

「牙には牙をって……極悪すぎる作戦だよ。レイさんの性格の悪さも大概たいがいってやつだね」

「ふっふっふ」


 性格が曲がっていることを指摘されて喜ぶ人間、レイくらいだろう。


 ドアが開いて、マナカが戻ってきた。

 後ろ手を組んだまま、まずはレイを、それからテツヤを見つめる。


「おやおや、アイディアが閃いたみたいですね」

「別に〜」

「お姉ちゃんが隠しごとをしているとき、露骨に目を合わせようとしないので、一発でわかりますよ」

「ッ……⁉︎」

「おい、レイさん」

「ほら、やっぱり図星なのですね」


 レイは歯噛はがみして悔しそう。


「そうよ。もう対策はバッチリよ。覚悟なさい。負けないから」

「ふ〜ん、それは楽しみです」


 姉妹のあいだでパチパチと火花が散る。


 大丈夫かな。

 勝てるかな。


 一番心配なのは、マナカが手加減しているケース。

 まだ本気を出していませんよ、というパターンなのだ。


 そもそも、キャラ選択の時点で手を抜いているのが見え見えだし、底が知れない、という不気味さはある。


 まあ、いい。

 悩んでも結果が変わるわけじゃない。

 テツヤはコントローラーを強く握りしめた。


「予定通りいくぜ、レイさん」

「ボコボコにしてやる。クソ生意気な妹は」


 それを聞いたマナカが鼻で笑った。


「お姉ちゃん、よっぽど自信があるのですね。もし、私に負けたら、罰ゲームとして、結城くんと漫才をやってください」


 それはよくない! と思ったテツヤは手でストップをかけたのだが……。


「上等じゃない! やってやるわよ、漫才!」

「やった! 楽しみ〜!」


 おいおい、巻き込まれちゃったよ。

 というか、あおり耐性がなさすぎる。


「どうすんの? レイさん、漫才とかできるの?」

「無理に決まっているじゃない。私は漫才からもっとも遠いところで生きている」

「だろうね」


 みずから退路を断っていくパターンか。

 いつの時代の軍人だよ。


 これで勝つ以外の道はなくなった。

 レイと漫才をやるとか、テツヤもごめんだし、何としても勝ちたいところ。


「じゃあ、バトルを開始しますよ」


 対戦するステージは今回もランダム。

 ギミックや障害物の少ないシンプルなステージが選ばれた。


 これは追い風。

 仕掛けの少ないステージの方がテツヤとレイは連携しやすい。


 3……2……1……。

 バトル開始。


 まずテツヤはガードを固める。

 カメみたいに固めて固めて固めまくる。


 するとマナカは当然のように投げ技を出してきた。


 ここがチャンス。

 投げモーション中は背中がガラ空きなのだ。

 すぐにレイが強烈な一撃を叩き込む。


 初ダメージはマナカ。

 過去になかった現象である。


「おお……」


 違和感に気づいたマナカが、攻撃のターゲットにレイを選ぶ。

 しかし、こっちもガチガチにガードを固めるから、けっきょく投げるしかない。


 今度はテツヤが襲いかかる。

 マナカの操作キャラクターに大ダメージを与えることに成功した。


「なるほど」


 この作戦はおもしろいほどハマった。

 というのも、人間、羽虫を見かけたらついつい叩いちゃうように、ガードしまくりの相手を見たら、反射的に投げたくなるのだ。


 長時間のプレイで染みついたマナカの習性。

 それを逆手に取ったのである。


「ぐぬぬぬぬ……」


 とうとう撃破。

 マナカの残機が1個減る。


「どうかしら。これが鉄壁の布陣。パーフェクト・ガーディアン・フォースよ!」


 レイがドヤ顔を向ける。


「ちょっとダサいよ、レイさん。いや、かなりダサいよ」

「なんですって⁉︎」

「結城くんのいう通りだよ。パーフェクト・ガーディアン・フォースは、男子小学生が好きそうなネーミングだよ」

「マナカまで⁉︎」


 技名を思いつくなんて……。

 レイもガキっぽい一面があるんだな。

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