第25話

 それから何回かバトルした。

 肝心の結果はというと……。


 全敗。

 まったくマナカに歯が立たない。


 テツヤはがっくりとうなだれて、レイは手をプルプルと震わせていた。


 どうする?

 負けず嫌いのレイのことだ。

 勝利して終わりたい!

 勝つまで諦めない!

 そういう気持ちが強いだろうな。


 とはいえ、彼我ひがの実力差が大きいのも事実。

 このままだと日暮れまでに1勝できるかどうか。


「あ〜あ、楽しいな〜。私はお手洗いにいってきますね〜」


 マナカはリビングから出ていくとき、わざわざ振り返り、


「お手洗い、ちょっと時間がかかるかもしれません。まあ、適当にお茶でも飲みながら、私の対策を練っておいてください」


 意味ありげに笑った。


 イラッ!

 レイと同じ顔で挑発されたらムカつくな。


「なあ、レイさん、次は勝とうぜ」

「当たり前よ。ここまでめられて、終われるわけないでしょう」

「だが、マナカさんを倒すためには、俺たちの連携が欠かせない。その点は理解してくれるかな?」

「わかっているわよ。それにしても、結城くん、口ほどじゃないわね。マナカにボコボコにされて、ボロ雑巾ぞうきんになっているじゃない」


 ボロ雑巾って……。


「レイさんよりは活躍しているつもりですがね」

「どんぐりの背くらべよ」

「たしかに」


 与えられたミーティング時間は3分か4分くらい。

 こんな短時間で立てられる作戦、数が限られているけどな。


「それより、作戦は?」

「いま考えている」


 ガサッ!

 ドアの方から物音がした。


「どうしたの?」

「いや……なんでも……」


 気のせいかと思い、視線をレイに戻す。


 どうして負けるんだ?

 テツヤたちの攻撃が当たらないから?


 勝つ方法はあるはずだよな。


 こっちは2人でマナカは1人なんだ。

 大きな敗因は、数的優位を活かせていないから。


 どうやって活かせばいい?

 どうやってマナカに攻撃を当てたらいい?


 マナカがやられて一番嫌なこと。


 挟み撃ち?

 それは違う、もうやった。

 だとしたら……。


「あるぞ、レイさん。俺たちの攻撃を、確実にマナカさんに当てる方法が」

「まさか、刺し違えてでも殺す、とかいわないでしょうね。さっき、私が試そうとしたけれども、マナカに避けられちゃったわ」

「だろうね。マナカさんなら、そこらへんも想定済みだろうね」

「もったいぶらずに教えなさいよ」


 レイが耳に手を当てて、体をかたむけてくる。

 ぷ〜んと香水の匂いがして、テツヤの胸の鼓動が速まった。


「どうしたのよ。早くしないとマナカが戻ってくるわ」

「ああ……そうだね」


 でも、その前に。


「レイさんはなんで勝利にこだわるんだよ。他人ならわかるが、双子だろう。それに、マナカさんと仲良しじゃん」

「別にいいじゃない。私は姉なのだから。勝たないといけないの。姉より強い妹なんて認めたくない」


 レイなりの矜持プライドがあるわけか。


「わからねえな。双子だから、ベースの能力は互角だろうに」

「ひとりっ子の結城くんには理解できないでしょうね」

「まあな。わかるといったら嘘になる」

「ほら、早く教えなさい」

「はいはい……」


 テツヤは小声で耳打ちした。


 なぜ今まで気づかなかったんだ。

 そう思っちゃうくらい単純な作戦だから、レイはキョトンとしたあと、声を出して笑った。


「おそらく、マナカさんがされたら一番嫌なこと」

「まあまあ性格が悪いのね、結城くん」

「それは否定しない」


 レイの横顔を見つめながら、耳たぶの形がきれいだな、とテツヤは思った。

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