第24話

「じゃ〜ん!」


 マナカがリビングに運んできたのは、有名なメーカーの対戦ゲーム。

 同時に8人まで遊べるやつ。


「結城くん、このゲームをやったことはありますか?」

「中学時代に友だちの家でやったくらいかな。だいたいの操作なら覚えているよ」

「ふ〜ん、お姉ちゃんと違って、ちゃんと友だちがいるのですね! すばらしい! エクセレント!」


 言葉の刃がグサグサと姉のハートを刻んでいく。


「ちょっと、結城くん」


 レイに服のすそを引っ張られた。


「私たちで協力して、マナカをひねり潰すわよ」

「レイさん、このゲーム、どのくらい触れているの?」

「累計10時間くらいね。一通りの操作は理解しているつもり」

「全然ダメじゃん。それ、ザコと初心者の中間くらいだよ」

「なっ⁉︎」


 レイの顔が怒りでゆがんだ。


 これでいい。

 レイはきっと怒りが原動力となり、実力以上のパワーを発揮できちゃうタイプだ。


「俺とレイさんだったら、俺の方が上手いと思う。だから、フォローをお願いしたい」

「いってくれるわね。せいぜい私の足を引っ張らないようにしなさい」


 そんなやり取りを目にして、マナカがニヤニヤする。


「2人で協力して私を倒そうって魂胆こんたんですか? いいですよ。そう簡単には負けませんから」

「ちなみに、マナカさん、このゲームをどのくらいプレイしているの?」

「さあ、1,000時間は超えています。あ、手加減に失敗したらごめんなさい」

「…………」


 上等じゃねえか。

 挑発MAXな口ぶりにイラッとしたテツヤは、渡されたコントローラーを握りしめる。


 純粋な戦力は1人vs2人。

 それにテツヤとレイは言葉で連携できる。


 大丈夫。

 レイだって、ベースの頭脳は優秀なんだし、コツさえつかめば勝てる……はず。


「ではでは、さっそくキャラクターを選びましょう」


 まずはマナカから。


「本当はジョーカーで戦いたいですが……」


 そのように前置きした上で、カメ帝国の大魔王をチョイスした。


 なるほど。

 ハンディ有ってわけか。


 テツヤは赤い服を着た配管工のおじさんを選ぶ。

 こう見えて25歳くらいの年齢設定だから驚きだ。


 レイはピンク色のドレスを着たお姫様を選んだ。

 すぅ〜、はぁ〜、と深呼吸しており、やる気十分。


「レイさんに司令官を任せてもいいかな? なんか作戦をくれ」

「そうね。まずは自由に戦って、お互いの実力を知るところからはじめましょう」

「それは悪くないアイディアだ」


 3……2……1……。

 いざ、バトル開始。


 さっそくテツヤとレイで、マナカの操作キャラクターを挟み撃ちにした。


 カメ帝国の大魔王には、わかりやすい弱点がある。

 図体がデカいから、純粋に攻撃が命中しやすいのだ。


 ハチになったつもりでチクチク攻撃していけば楽勝なのでは?

 テツヤは最初、そう考えていたのだが……。


「ふっふっふ……お姉ちゃんたちの攻撃、見え見えですよ〜」


 当たらねえ……。

 重量級キャラクターのくせに、ぬるぬる回避するから、こちらの攻撃がまったく命中しない。


「この……デカブツのくせにうろちょろと……」


 レイが前のめりになる。


「いけない、レイさん!」

「ッ……⁉︎」


 配管工のおじさんと、ピンク色の姫が重なったところに、超強力な一撃を叩き込まれて、男女は仲良く星になってしまった。


 1戦目は完敗。

 マナカは高笑いして、レイはふくれっ面に。


「お二人のコンビネーション、全然じゃないですか〜。そんなんじゃ、一生私の相手になりませんよ〜」

「いってくれるじゃない! 結城くん、もう1回挑むわよ!」

「おう、せめて完封で負けるのは阻止しよう」


 共闘宣言するテツヤとレイのことを、マナカはいたずらっぽい目つきで見ていた。

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