氷帝に告ったつもりが、双子の妹の愛帝に求愛してしまった

第22話

「ねえねえ、お姉ちゃん、聞いてよ！」

「どうしたのよ？」

　姉妹というのは、不思議なものだ。

　他愛（たあい）のないことでも笑ったりするらしい。

「コジローがね、いつも回し車を時計回りに走っているんだけれども、今日はなぜか反時計回りに走っていたの。世界が左右反転しちゃった気分」

「なにそれ」

　レイがぷっと笑う。

　ちなみに、コジローとは、織部家で飼っているゴールデンハムスターのことである。

「ごめんなさいね、結城くん。お姉ちゃんと身内ネタで盛り上がっちゃって」

「いやいや、気にしないで」

　マナカは生粋（きっすい）のおしゃべり大好き人間らしく、セリフの7割はマナカの口から出たものだった。

「どうですか？　お味噌汁、おいしいですか？」

「もちろん、おいしいよ」

「やった！」

　マナカは満足そうに笑ったあと、レイの方を向く。

　まさか……。

「このお味噌汁、レイさんが料理したの？」

「うっ……」

　不服そうにお箸（はし）をくわえている。

「普通においしいよ。自分がつくった、と最初に教えてくれたらいいのに」

「いやよ、そんな、恥ずかしい」

「わからねえな。少しも恥ずかしくないだろう」

「ああ……もう……どうして結城くんって、鈍感なのかしら」

「はぁ⁉︎　俺が鈍感⁉︎」

　君にはいわれたくないけどね！

　マナカがいる手前、ぐっと我慢しておく。

「お姉ちゃんね、超がんばってお味噌汁をつくってくれたのですよ。マナカがお願いしたから。いつもはインスタントだけれども、たまには手づくりがいい、てお願いしたの」

「ちょっと！　マナカ！」

「嬉しかったな〜」

「はぁ……」

　ルンルン気分で肩を揺らす妹に、レイは恨めしそうな視線を向ける。

「これで理解できましたか、結城くん。お姉ちゃんって、いい姉なのですが、いい姉と呼ばれるのは嫌いなんです」

「なんか……こう……とっても複雑な性格だよね。取り扱い注意みたいな」

「そうそう！」

　勝手に盛り上がるテツヤ&マナカの横で、

「お味噌汁くらい、家庭科の調理実習でつくるじゃない」

　レイはボソッとつぶやく。

「マナカさん、教えてくれ。君のお姉さんを褒めるとき、どうやったら角が立たずに褒められるの？」

「よくぞ聞いてくれました！　実はコツがあるのです！」

「ちょっと……マナカ……」

「まあまあ」

　教えてくれた話はこうだった。

「お姉ちゃん自身ではなく、周りの物を褒めたらいいのです。たとえば、床とか。髪の毛一本落ちておらず、ピカピカでしょう。お姉ちゃんが掃除してくれたお陰です。掃除機をかけるの、とっても上手いんですよ。天才的です」

「たしかに、俺も思った。家中がピカピカだって。この家って大きいし、ここまで清潔な状態をキープするのは、並大抵の努力じゃないだろうね」

「そうそう、そんな感じです」

「なるほど」

　レイは悔しさ半分、嬉しさ半分といった表情に。

「もう、あんたたち、本当に調子がいいんだから」

　口ではブーブー文句をいいつつも、レイは学校の100倍くらい楽しそうだ。