第20話

 玉子焼きを届けにきたら、家の中へ誘われた。

 いざ、はじめての織部家に突入である。


「うわっ、広い」


 まず驚いたのは玄関のところ。

 床が鏡みたいにピカピカしている大理石だし、高そうなつぼとか置いているし、民家っていうよりホテルみたい。


 さすが社長のご令嬢。


 物はあまり置いておらず、壺の他には傘立てくらい。

 そのせいで余計に広く感じてしまう。


「何ぼうっとしているのよ。見せ物じゃないんだから」

「おっと、すまない」


 とりあえず靴を脱いだ。

 貸してもらったスリッパに足を通す。


 廊下もピカピカに磨かれており、髪の毛一本落ちていない。

 住んでいる人の性格が反映されている。


「ここでレイさんとマナカさんは毎日暮らしているんだ?」

「当たり前じゃない。自分家なのだから。バカ……じゃなくて、何か深い意味でもあるの?」

「……ないよ」

「でしょうね」

「はぁ……」


 花弁を逆さまにしたような照明器具がおしゃれだ。

 木棚のところには写真が飾ってあり、双子姉妹が仲良くピースしていた。


 へぇ〜。

 やっぱり、仲良しなんだな。

 顔は同じなのに、雰囲気のようなもので、レイとマナカの区別がつくからおもしろい。


「写真、じろじろ見ないでよ。恥ずかしいから」

「おっと、悪い」


 リビングのドアが開いて、マナカが出てきた。


「こんにちは〜」


 シンプルながらもかわいい服装にドキッとする。

 ひらひらのスカートとレギンス、上は淡いブルーのニットである。


 愛くるしい……。

 こりゃ、学校にいたら人気者だな。


「お姉さんに招待されました、結城です」

「よかった。お姉ちゃん、結城くんのこと追い返さないか心配しちゃった」

「しないわよ……そこまで嫌っていない」


 そこまで?

 好きか嫌いかでいうと嫌いってこと?


「気にしないでください、結城くん。お姉ちゃんは昔から天邪鬼あまのじゃくなので。大嫌いっていうのは、大好きっていうのと同じです」

「なっ⁉︎」


 レイは一瞬、沸騰ふっとうしそうになったけれども、反省するように縮こまってしまった。


「いい加減なこといわないで」


 文句をいう口ぶりは弱々しい。


 おおっ!

 すげぇ!

 あのレイが、妹の前だと借りてきた猫みたいに大人しい。


 ようやく見つけたレイの弱点。

 それは愛すべき妹の存在だった。

 

「結城くんに失礼なこといってないよね? 私たちのために骨を折ってくれたんだよ」

「いってないわよ……たぶん」

「たぶん?」

「いってない。そうよね?」


 レイのプレッシャーに負けたテツヤは、


「おう」


 と返して2回うなずいた。

 半信半疑のマナカが、本当かな? と首をかしげる。


 こうして並ぶと、2人の差は服装くらい。

 身長だってレイが1cmか2cm高いだけ。


 双子ってよく髪型をバラけさせるイメージ。

 でも、レイとマナカは完全一致している。


 どんな気分だろう。

 瓜二つの人間と一つ屋根の下で過ごすのって。


「なによ、結城くん、私が無愛想っていいたいの?」

「そうは思わない。どっちかっていうと、マナカさんが愛嬌たっぷりなだけ。レイさんは普通だと思うよ」

「ふん、わかっているじゃない」


 レイはそういって眉間みけんにシワを寄せる。


「こらこら、お姉ちゃん、目と目のあいだにシワが寄っていますよ」

「ッ……⁉︎」


 ぷっぷ。

 怒られてやんの。


「笑ったでしょう⁉︎」

「笑ってねえよ。それは被害妄想ってやつだ」

「くうぅぅぅ〜! 結城くんのくせに生意気ね!」

「はいはい……」


 ここ最近、レイの『かわいくない部分』がかわいく思えてきたのは、どういう理屈だろうか。

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