第19話

「……」

「…………」


 どうしよう。

 長話すると、また地雷を踏み抜いちゃうよな。


 よし、帰ろう。

 レイとは学校で会えるしな。


 マナカに会えないのは残念だけれども……。

 いずれメッセージ交換する機会があるだろう。


「じゃあ、また来週。卵は傷んじゃうから、なるべく早めに食べてね。他に食べたい料理があったら教えてよ。またデリバリーするからさ」

「あのっ……」


 きびすを返そうとしたら、呼び止められた。


「どうしたの、織部さん」

「うっ……いいわよ、レイさんで」

「えっ? いいの? 嫌がっていたのに?」

「好きに呼べばいいじゃない」

「じゃあ、レイさんで」


 レイは下唇を噛んだあと、自分の頭をポコポコ叩いた。


「入っていきなさいよ」

「どこに?」

「うちの家に決まっているじゃない。もしかして、この後、用事があるとかいわないよね?」

「え〜と……」


 セリフの意味を理解した瞬間、うそ、とつぶやいた。


「レイさんの家、寄っちゃっていいの?」

「だから、いいって。バイクはそこらへんに止めたらいいから」

「やった。今日、ご両親は?」

「いないわ」


 レイは横引きシャッターを開けてくれた。

 結城家が3個は入りそうな豪邸に、テツヤははじめてお邪魔する。


 これは偉業だ。

 生まれてはじめて女子の家に入る。


 靴下、大丈夫かな。

 ちゃんと新しいのいてきたらよかった。


 どんな匂いがするんだろう。

 柑橘系シトラスの匂いとかしそう。


「今日、マナカさんは?」

「いるわよ、家に」

「へぇ〜」


 どういう風の吹き回しだろうか。

 大出血サービスじゃないだろうか。


「もしかして、誕生日会でもやっているの? それでメンツが多い方がいいとか?」

「バカ……そんなんじゃないわよ」


 レイからバカといわれるのは、かれこれ30回目くらいだが、今回のバカが一番かわいい。


「もう1回バカっていって」

「バカじゃないの」


 うっ……かわいい。


「もう〜、絶対に変なこと考えたでしょう」

「考えた。レイさんのことが更に好きになった」

「くぅぅぅ〜〜〜、結城くんって本当にバカね」


 やべぇ。

 おもしろすぎて吹き出した。


「絶対に何かあったでしょう?」

「何もないわよ」

「ふ〜ん」


 たぶん、マナカの影響だな。

 レイに怒っていたしな。


 でも、意外。

 てっきり、姉のレイが威張いばっているのかと思いきや、双子らしく、フェアな関係を構築しているっぽい。


 さすが大天使。

 マナカに感謝しないと。


「…………」


 ドアに手をかけたレイがジト目でにらんでくる。


「どうしたの?」

「マナカに変なこといわないでよ」

「変なことって、なんなの?」

「だから……それは……」


 わかるよ。

 学校だと毒舌のオンパレードって話だろう。

 あとは氷帝オーラを全開にさせて、誰一人近づけないとか。


「心配するなって。レイさんの株が上がるよう、ポジティブなことしかいわないよ」

「くぅぅぅ〜〜〜、結城くんから、そんなセリフをもらうなんて、屈辱すぎて死にたいくらい」

「大丈夫、大丈夫、死なないから」

「なっ……⁉︎」


 レイには申し訳ないけれども……。

 好きな女の子をからかうのって、この世で一番楽しいかもしれない。




《作者コメント:2021/06/03》

明日の更新はお休みします。

次回は6月5日を予定しています。

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