第11話

 30秒待つ。

 マナカから返信はこない。


 3分待つ。

 まだ返信はこない。


 げくさい匂いが鼻をついて、テツヤはあっ! と声を出した。

 ハンバーグの火を止めるの、完全に忘れていた!


 急いでお皿に移しておく。

 食べられなくはないが、表面は完全に焦げちゃっており、フライパンと同じ色になっている。


 やっちゃった……。

 結城テツヤ、一生の不覚。

 まさか、女の子とのコミュニケーションにうつつを抜かして、料理に失敗する日がやってくるなんて。


 フライパンに付着している焦げと、自責の念をゴシゴシ洗っていると、携帯がピコンと鳴った。


 手をぬぐってからメッセージをチェックしてみる。

 さあ、マナカは何と返してくるか。


『ちょっと……』

『なんで結城くんがマナカと仲良くやり取りしているのよ』


 ん? これは?

 レイが打ったのか?


 だよな。

 向こうの携帯、レイのものだしな。


『ごめん、ごめん』

『楽しくて、つい……』


 ポチッと送信。


『くそ……』

『この携帯……』

『文字が打ちにくいわね』


『いやいや』

『俺に文句をいわれましても』


『仕方ないじゃない』

『思ったことを言葉にしたくなる性格なのだから』


『へぇ〜』

『そういうの、難儀なんぎな性格っていうのかな』

『織部さん、友人をつくるのに一番苦労しそうなキャラクターだよね』


『別にいいわよ』

『友人を集めたら何かいいことあるの?』

『余計な手間ヒマがかかっちゃうだけじゃないの?』


『そうかな?』


『だいたいね、高校時代の友人なんて』

『社会人になって5年とか10年とかしたら』

『1年に1回ご飯を食べにいくのが関の山でしょうが……』


『うわぁ……』

『ビジネスライク』

『まさか、それ、学校で口にしないよな』


『しないわよ!』

『私もそこまでバカじゃない!』


『でもさ……』

『周りと仲良くしましょう』

『みんなで助け合いましょう』

『小学校の先生から教わらなかった?』


『うわっ! ムカつく!』

『結城くんに説教されたくない!』

『あなたも浮いた存在でしょうが⁉︎』


『おっしゃる通りで』

『織部さんの一匹狼なスタンスを否定する権利、俺にはないね』


『ふ〜ん』

『自覚はあるのね』

『結城くんのひねくれた性格、嫌いだけれども嫌いじゃないわよ』


『ちょっと、織部さん』

『ときどき日本語が難しすぎるよ』

『嫌いなの? 嫌いじゃないの? どっち?』


『はぁ⁉︎』


『嫌いだけれども嫌いじゃないって、矛盾してない?』

『どう解釈すればいいか、100文字以内で教えてほしいな』


『あのね……』

『ちょっと待ちなさい』

『結城くんの脳みそでも理解できるよう、作文してあげるから』


 ポチポチポチポチ。

 レイが顔を真っ赤にして文字を打っているのかと思うと、おかしさで笑い転げそうになる。


『捻くれている人間は嫌いじゃない』

『そういう意味で結城くんのことは嫌いじゃない』

『でも、結城くんの中に、私とそっくりな部分を見つける』

『そういう意味で結城くんのことは嫌い』

『これで納得してくれた?』


『んん?』

『同族嫌悪?』


『それ!』

『あなた、良い言葉を知っているじゃない!』

『そのセンス、見直したわ!』


『そりゃ、ど〜も』

『氷帝様にめていただき、光栄です』

『て……氷帝と呼ばれるの、嫌いなんだっけ?』


『別に……』

『レイさん、と呼ばれるくらいなら、氷帝さんの方が100倍マシね』


 ヤバいな、この子。

 テツヤが会ってきた人間でもっとも奇天烈きてれつじゃないか。


 でも、不思議だ。

 レイに褒められたとき、胸の奥がポカポカした。

 余計な憎まれ口さえなけりゃ、完ぺきなのだが……。


『ごめん、私たち、これから夕食だから』

『今日のやり取りはここまでね』

『あ〜あ、携帯って疲れる』

『悪魔のツールだわ』

『また明日ね』


『はいよ』

『また明日』


 ちょっと待てよ。

 討論会みたいになって、有益なことを何一つ聞けていないような……。


「まあ、いいや。明日、話すか。にしても、双子って、性格は似ないんだな」


 テツヤ自作のハンバーグは、ちょっぴりビターな味がした。

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