第10話

 ちょっと風変わりな女の子、織部おりべさん。

 なんとSNSとは無縁の生活を送っている人間だった。


『マナカなら詳しいと思うの』


『わかったわよ。帰ったらインストールしてみる』


『何てアプリ?』


『ID? アカウント名? それを教えてもらったら、結城ゆうきくんと連絡を取り合えるのでしょう』


『はいはい……でも、あまり期待しないでよね』


『24時間ネットにつながるなんて……狂気だわ』


 そんな会話をして別れたのが6時間くらい前。


 テツヤはスーパーに寄ってから家まで帰ってきた。

 台所のところで、夕食のハンバーグづくりに取りかかる。


 まず玉ねぎを刻む。

 フライパンでじっくりいためてボールに移す。


 ひき肉、たまご、塩、こしょうと一緒に混ぜる。

 とにかく混ぜる、終わったらパン粉を加えてさらに混ぜる。


 手でペタペタして小判こばんにする。

 そして、弱火のフライパンに投入。


 肉に火を通しているあいだに、付け合わせのサラダを準備しておく。


 洗ったレタスを手でちぎる。

 カットしたキュウリとトマトをのせれば完成。


 母親からは、今日も遅くなりそう、と連絡を受けている。

 だから、もう一個のハンバーグは、帰宅に合わせて焼けばいいだろう。


 テツヤが茶碗ちゃわんにご飯をよそっていると、携帯がピコンと鳴った。

 もしやと思って開くとレイだった。


『織部レイから友達申請が届いています』


 ニヤニヤしながら『許可する』をタップ。

 リストのところに『織部レイ』が加わった。


 さてさて。

 何かメッセージを送ってみるか。


 友達申請ありがとう、とか。

 レイがSNS大っ嫌い人間だとしても、お礼のメッセージを受け取って怒ることはないだろう。


『結城です。さっそく対応してくれてありがとう、織部さん』


 これで送信。

 すぐに既読アイコンがついた。


 よしっ! よしっ! よしっ!

 レイとつながれた嬉しさで、何回かガッツポーズする。


 あの氷帝が画面の向こうにいる。

 いつでも連絡を取れるようになった。

 友人登録されている男子はテツヤ1人だけ。


 これは偉業ではないだろうか?


 嬉しさでニヤけていると返信がきた。

 レイかと思いきや、妹のマナカだった。


『マナカです!』

『お姉ちゃんの携帯を借りています!』

『SNSのIDを教えてくれてありがとうございます!』


『お姉ちゃんはIT音痴おんちなところがあるので、私が代わりに設定しました』


『アイコンのハムスターは、現在、家で飼っている子です。背中にCみたいな模様があるので、シャネルと呼んでいます』


 なんだ、これ⁉︎

 メチャクチャ女子っぽい⁉︎

 しかも、メッセージとメッセージのあいだに、愛らしいスタンプまでついている。


 どうしよう……。

 何か返信すべきだよな。


「マナカさん……はじめまして……いや、こんばんは……お姉さんから話を聞いているかもしれませんが……結城テツヤと申します……いやいや、自己紹介は昨日したよな……え〜と……」


 テツヤがメッセージを打ったり消したりしていると、マナカから追加のメッセージが飛んできた。


『今日、お姉ちゃんとどんな会話をしましたか?』


 う〜ん……。

 遠回しに振られちゃいました。

 とか、教えられるわけない。


『簡単な身の上話をしたよ』

『織部さんに妹さんがいるのは初耳』

『あまりに似ていたから驚いちゃったな』


 これで送信。


『えへへ』

『驚いてくれた⁉︎』

『だったら、嬉しいな〜!』


 なんだ、この子⁉︎

 氷帝と真逆で、かわいいしかない!


 どうしよう……。

 マナカに質問しても許されるのかな?

 というか、質問したい!


『マナカさんにいておきたいことがあるのですが……』

『どうしてお姉さんに成りすまして登校しようと思ったの?』


 ポチッと送信してみる。

 果たしてマナカはどんな反応を見せてくれるのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る