第8話
彼女は
『はいはい』
『カップル解消ね』
『バイバ〜イ』
そういってテツヤを切り捨ててしまう人間のはず。
意外すぎるほど意外なのだ。
2人の関係はなかったことにしよう、というテツヤの提案に、真っ向から反対してきたことが。
「ちょっと待って」
テツヤは手でストップをかけた。
それから人差し指で、しぃ〜、のジェスチャーをつくる。
視線のようなもの。
いくつか人の気配を感じる。
郷土資料室のドアを開けた。
会話を盗み聞きしようとしている、3人組の女生徒を見つける。
テツヤのクラスメイトじゃないから、特進クラスの生徒だろう。
「ごめん、俺と織部さん、大切な話をしているから。盗み聞きされると、まあまあ迷惑なんだ」
3人組はびっくりして逃げていった。
ごめんなさ〜い! と悲鳴を残しながら。
「君のクラスメイトが盗み聞きしようとしていた」
「えっ? そうなの?」
「
「ごめんなさい……私、まったく気づかなかった」
「仕方ないよ。俺も不用心だった」
テツヤは首を振ってから着席する。
「俺でさえ朝からアレコレ質問されたんだ。織部さんの注目度は、俺なんかの比じゃないだろうね」
レイはしゅんとなる。
ルールを破ってしまい反省する子どもみたいに。
なるほど。
プライドが高いだけの女の子じゃないらしい。
「織部さん?」
「……あっ……はい」
「もしかして疲れている? 病み上がりなんだよね?」
「いや、全然! 私のことは気にしないで!」
必死に否定するところがますます怪しい。
テツヤは話題を変えるため、手つかずのお弁当を持ち上げる。
「話の続きをしよっか……といいたいけれども、あと15分でお昼休みが終わっちゃうね」
「あら、本当だ」
「俺からの提案なのだけれども、また明日、ここで会話できないかな。2人の関係をどうするか、ちゃんと話し合おう」
「私はいいけれども……むしろ、結城くんはいいの? だって、冷静に考えてみれば、被害者は結城くんの方よ」
「別にかまわない。俺は元々、織部さんに告白したかったんだ。ほぼ100%振られる前提だった」
レイは一瞬、キョトン顔になる。
「じゃあ、なんで告白したのよ。わざわざ傷つくような行為じゃない。バカみたい」
「男の口からそういうことを語らせるのは、まあまあ
「うっ……ごめんなさい……デリカシーに欠けていた」
レイの辞書にもデリカシーという言葉がのっていると知り、テツヤは微笑む。
「そうね。ランチにしましょう。いただきます」
サンドイッチとお茶。
それがレイの昼食だった。
えっ⁉︎ それだけ⁉︎
テツヤはびっくりする。
たしかにレイは
運動系の部活に入っていないとはいえ、高校生のランチにしては貧弱すぎるのでは?
しかも、サンドイッチの具材。
ペラペラのハムに、ペラペラのチーズという組み合わせ。
たぶん、スーパーで買ったら100円しないやつ。
こんな食事でよくトップの成績を維持できるな。
「織部さんのお昼ご飯、それだけ?」
「ん? 文句あるの?」
「いや……」
なんか気まずい。
テツヤだけ腹いっぱいになるのは申し訳ない。
「私は好んでこのメニューをチョイスしているの」
「へぇ……そうなんだ」
噂によると、レイのお父さんは会社を経営している。
だから、金銭的な問題はないはず。
「結城くんはいいわね。毎日、お母さんがお弁当をつくってくれて」
「それは違う。この弁当は毎朝自分でつくっている」
「あら? そうなの?」
テツヤを見るレイの目に、はじめて尊敬の色が浮かんだ。
「お弁当って自分でつくれるの?」
「当たり前だ。時間と気力さえあれば誰でもつくれる」
「へぇ〜。結城くんって器用なのね。見せてもらってもいいかしら」
「どうぞ」
弁当をテーブルの真ん中に置く。
「あっ⁉︎」
「食べてみる?」
「嫌よ。そんな
「じゃあ、言葉を変えようか。ぜひ織部さんに食べてもらって、採点を聞かせてほしいな」
「へぇ、自信があるってことね。いっておくけれども、私は煮っころがしにうるさいわよ。結城くんのプライドをボコボコに打ち砕いても責任は取らないから」
「望むところだね」
それを口に運んだレイの反応はというと……。
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