5.
首くくり犯について、以下、現状推察できる事柄をまとめる。
異能の発動条件は以下であると推察される。
①
あらかじめ異能を発動する範囲を限定しておく事で、その後自動的に異能が発動する型。
この場合、落とし穴やトラップのように異能が働くため、その場での犯人の特定は困難である。
②
これは多くの異能者に見られる、目の前の事柄を認識、視認しながら異能を発動、行使する状態である。
この場合、犯人は『映像』または『目視』で現場を捉え、能力を発動する必要が出てくる。
前者であれば前持った準備が必要な異能となり、犯人の特定までは時間を要する。
後者であれば異能が発動した瞬間その場にいた者が容疑者であり犯人である。
各員、以上の事に注意して首くくり犯を見極めるべし。
現状『首くくりの異能力者』について言える事をまとめた紙片に目を通し「時間がかかりそうですね」とぼやくと、
「いいんですか。コレ、配ってしまって」
各員、となっているように、これはポートマフィアに所属する人間全員に今朝配られたもので、俺はついさっき首領の手から受け取った。
というのも、今朝はアイツが頭が痛いと喚いて暴れるもんだから、朝の会議をすっぽかす破目になったのだ。
幹部勢は会議でこの書面について説明されているんだろうが、俺は知らない。
今は強い鎮静剤を打ったことで半分混濁した意識でベッドに寝かせられて静かになった女は、時折呻いては「あじさぃ…」とこぼしている。
薬の副作用か、びく、と震えて布団を蹴飛ばし床に落とすから、仕方なく拾ってかけ直してやる。「紫陽花ならあるだろ」枕元に持ってきたフリーズドライの紫陽花の花束を揺らすと、紫陽花があるという事実に満足したのか、ようやく目を閉じた。
首領は俺と彼女のやり取りが終わってから口を開く。
「持久戦はお互い様だから、こちらとしてはあちらのミスを誘いたい」
「はい」
「そこで、彼女を使おうと思う」
「……は?」
意味が分からず顔を顰めた俺に、白衣を着た町医者は寒々しい笑みを浮かべた。
「ポートマフィア幹部、中原中也にダメージを与えるためと考えても、私ではなく彼女が狙われたのには意味があると思わないかい?」
「…それは………」
「ポートマフィアに怨みがあるのなら、狙うべきは私だろう?
それをしない理由としては、首くくりの異能犯でも歯がゆいところだろう、異能の制限が一番に考えられる。つまるところそこに記したように異能発動に条件があり、だからすぐに私を狙う事ができない。
その辺りから埋めていくとね、彼女が首をくくられそうになった時、犯人は君達を視認していたんじゃないかと思うんだよ」
書面の内容、首領の言葉を受け止めながら、彼女が首を吊られた時の事を思い返す。
たとえば罠のようにその場に異能発動空間を設置する場合、俺が部屋に戻った時に彼女は首を吊っていたはずだ。だがそうではなく、俺がそばに行き、声をかけたその時に首くくりの紐が現れ彼女を吊ろうとした………。
とすれば、あの場に俺達以外の誰かがいたか。それとも、彼女の脱走を監視するためのモニタ室に常駐する警備員が犯人か。
どちらにせよ、首くくり犯は俺と彼女の二人を注視しながら異能を発動したという事になる。
合点がいったせいでますます顔を顰めた俺に、首領は冷徹な微笑みを浮かべてみせる。
「おそらく、犯人は気付いているよ。中也くん、君の異能と自分の異能の相性が最悪だって事にね。
だから、ポートマフィアの外堀を埋めるという意味でも、君と、君が大切にしている彼女を狙うだろう……」
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