第8話「聖女としての」

「さてと・・・ご飯食べ終えたし戻るとするか」

「ね、ねぇ・・・錬」


食後に外で日課にしようと思ってやり始めた朝の体操をしている途中で隣の大聖堂へ行く渡り廊下から日野が来て俺に話しかけて来た。


「どうした?日野」

「・・・ひ、久し振りに下の名前で呼んで貰いたいなぁ~と思って」


日野がそう言ってよそよそしく落ち着かず体をモジモジしている。


昔、彼女がやっていた癖で好意のある人にのみ甘えたい時にする仕草だ。


ただ昔から俺は中学になってから楓と一緒に居た為、彼女のそう言った意図に気付かずにいた。


「(園児の頃から日野達いつものメンバーとの付き合いがあって下の名前で呼んでたけど・・・・)」


中学高校と歳を取るに連れて余り下の名前で呼ばなくなった事もあり、いつの間にか苗字で呼び捨てにする事が大体増えて来ただけだった。


「・・・分かった。俺の事も好きに呼んでも良いぞ」


俺はそう言って体操を終える。


日野・・・いや、キョウコは呼んで貰える事や俺に呼んでも良いと言う事で大層に良い笑顔で喜んだ。


「――――という事で、用が無い限りは此処へはあまり来ないんで」


一度、大聖堂に入るとノシルさんやエビルさんが居たので丁度話をする事にした。


「そうですか・・・」

「後々から見聞を広めに各国へ赴くんですよね?」


ノシルさんが少し残念そうな表情を見せ、エビルさんが俺にそう聞き返した。


俺は頷き


「えぇ、取り敢えず自分は今、冒険者なので依頼を受けつつ他の国へ足を運ぶ事にしたので」


俺がそう言い返すと、ノシルさんとエビルさんが二人でコソコソし始め、俺の方に向き直り


「レン様、実は私達の方からお願いがありまして」


エビルさんはそう言って修道女であるアリアンさんと悪魔である女魔族のカレスを連れて来た。


「彼女達と行くのであればついでに聖女であるキョウコさんを連れて行ってください」


そうノシルさんが言って俺の手をそっと握る。


「馬車で道行く時には既に聖女として申し分無い程の成長を見れました。ここにきても短時間ですでに役割を終えたので旅に同行を加えさせてください」

「それと・・・聖女の力がなくともここでは女神様の為に必死に力を付けた者達が居ますので心配は御座いません。なので――――」


エビルさんはそう言って、頭を下げた。


「―――分かりました。キョウコも一緒に連れて行きます」


その後は女神像の前でヴィレイシア様に一礼し、3人を連れて大聖堂を出た。


「お二人から話は聞いています。目的地までは私が御者をします」


大聖堂から出ると丁度行きの時も世話になった護衛騎士・・・もとい聖騎士長補佐のドルドさんが待っていてくれていた。


「まぁ、立ち話もなんで行きましょう」


ドルドさんがそう言って普通の馬車に乗せてくれた。


「御用達の馬車とは違ってい午後値は悪いかもしれませんが王国まではしばし我慢を・・・それでは出発致します」


ドルドさんがそう言って牽引している馬に指示をして馬車を動かした。


「・・・・」

「で、これがこう・・・で」

「成程、それでこうして―――」

馬車が動いている間、中で目の前の席でアリアンさんがキョウコに手拭い・・・現世で言うハンカチの絵柄の縫いを教わっていた。


「・・・あ、そうだ。カレス」

「な、何でしょうか」


俺に呼びかけられたカレスはビビリながら聞いて来た。


「確かお前―――上位魔族なんだよな?」

「えぇ、魔族階級によっては住む場所も違うので」


話を聞くと魔族も人間やエルフ以外の多種族同様"貴族階級"に似た"魔族階級"なるものが存在している。


その"階級"では人同様で提供される住処が違うらしい。


「50程回の襲撃成功回数かあるいは自身が襲った相手のランクが上である程階級は上がって行きます。」


実際に聞くと――――


・下位:階級の中で一番ランクの低い方。失敗を何度も繰り返すと魔族の中で追放される身となる。

※位の中では貧しい生活を強要されている。


・中位:下位より50回程の襲撃成功のみに与えられる位。

下位よりはそこそこ良い暮らしが出来る。


・上位:下位、中位よりマシな生活が送れる上に小貴族として扱われる位置。

そして100回の襲撃成功または獲物のうち一人だけ階級「男爵」か「子爵」のどちらか。

※上位より上の位には逆らえない立場だが、下位、中位への部下何人かを連れて行くことが許可されている。


・参謀位:下位から上位へ指示を行えるうえに管理を任せられる中継の役割がある。

1000回の襲撃成功または「伯爵」位の人間を5人程を討伐。


・軍神位:下位から参謀位までの魔族に指示を出す位。

5100程の襲撃、または「侯爵」を10人程討ち取る事。

等々。


「成程、因みにそれ以上の奴らはこっち側の討伐ランクで言う所のAからS辺りになるか」

「(この人昨日の夜盗み聞きした時に低ランク帯って聞いたけど・・・オーラからして高ランカーでしょ絶対!!)」


魔族階級に関してはまたタイミングさえあれば調べるとして・・・・


「下位魔族周辺はもしかして・・・子持ち家庭が多いのか?」

「えぇ、私のような上位、または中位にも子持ち家庭はありますが・・・」

カレスの表情を読み取った俺は気付いた。


絶対魔族の中でも戦いはしたくないと願おう者達が居ると。


「(・・・ギルドに行って話をしよう・・・このままでは無駄に散る命が魔族側にも増えるはず・・・)」


そう考えた矢先――――


馬車が急に止まった。


「どうしたんですか?」

「レンさん、貴方確か冒険者でしたよね」


ドルドさんが馬車を守って欲しいと言う事で馬車を出たら―――


野盗がぞろぞろと居た。


野盗

「ケケッ!何だ何だァ~?!行け好かねぇ坊ちゃんが出て来た――――」


「(3つ目の常時能力パッシブアビリティ・・・・【錬金】で作ったコイツを試してみるか、スキルは――――あったあった)」


俺は瞬時に携帯していた刀銃を使って野盗全員に撃ち込んだ。


撃たれた野盗達は次々と悲鳴やうめき声を出して倒れていき


「最後はお前だけのようだな」


野盗達のリーダー

「・・・・っ」


刀身部分を野盗達のリーダーに向ける。


「貴様・・・ただモンじゃねぇな・・・・一体何もんだテメェ・・・・」

「俺はレン、ただの冒険者だ」


抵抗の無いその男に魔力で溜め込んだ最後の一発を額に撃ち込んだ。

野盗のリーダーは無抵抗の状態で倒れた。


因みに先程打った弾とは違って魔力で込めた物は皮膚の柔らかい動物達が暴れない為に撃ち込む"麻酔"と同じ"【射撃スキル:睡眠弾】"だ。


「さて・・・・」

「「ヒッ!?」」


必死に逃げようとする野盗達を次々と捕縛し、短縮的に"転移"を使って馬車を中に居る人達と丸ごと城門前に着いた。


「おっ、よぉ!依頼帰りかい?」

「あぁ、途中で野盗を捕まえたんでな、補導してくれ」

「了解した!後は・・・」

「後は殆どギルマスに用があるからそのまま通してくれ」


俺はそう言って話しかけて来たその門番に人数分の金貨と自分のギルド会員用のカードを見せて通った。


「それじゃあ自分は戻る。何かあった時は頼らせて貰うよ」

「あぁ、帰りは気を付けてな」


聖騎士長補佐のドルドさんと別れて俺はそのままギルドに3人を連れて入った。


そんな俺に気付いたリリさんが来て


「任務成功ですね!」

「えぇ」

「あぁ、ついでにギルマスに面会頼む。リリさんも同席してくれるか?」


リリさんは俺の背後に居る人達に気付き、何も言わずに真剣にうなずいてギルマスの居る部屋に入って行った。


数分後、彼女は戻って来て


「ギルマスが是非と」

「助かる。あ、あと詰所に渡したけど野盗達十数人程捕まえたからそっちの方も確認後で頼む」

「分かったわ」

リリさんに案内されてギルマスの居る執務室に入った。


「久しぶりだな、話は聞いたぜ」

「あぁ、後・・・・」

「分かってるさ、おいリリ。そこに居る女性と話をつけてきな」


ギルマスのデトスさんがそう言うとリリは頷き俺の隣に居たアリアンさんがその場を離れる。


俺とギルマスで女魔族のカレスを紹介してから話し合った。


「――――なるほどなぁ~、それじゃあ向こうの旦那とは俺が話を付けておくよ」

「宜しくお願いします」

「あと、さっきも聞いたが・・・・野盗、あれな丁度依頼に出してたから良かったよ処理出来て」


そう言ってギルマスは笑顔で依頼の紙に達成のハンコを押して貰った。


「金はコッチで用意しとくから受付の隣にある待合の所の椅子に座っときな」

「分かりました。」

「それと―――――Cランク昇格おめでとう」


色々あって――――魔力を完全に奪われ、不自由を強いられた女魔族のカレスは国が認可している性格が良い人である奴隷商人に引き渡しておいた。


そしてもう一つ、とあるギルドに立ち寄り


「――――って事なんだが」


商業ギルド受付嬢

「レン様ですね、えーっと・・・・ありました。既にお住まいとなる場所はご依頼通りに仕上がっているのでそのままお使いください」


俺はそのままの足で拠点となる家に向かった。


理想通りの家がそこにあった。


「―――と、そうだ」

「私は隣の部屋で良い?レン君」


そう聞いて来たキョウコに俺は頷き、そのまま扉を開けて中に入った。


「中も予想通りだな」

「私、風呂場あるか見て来る」

「おう、ついでにそのまま体洗ってきたらどうだ?」


家の中で別れて俺はそのままネームプレートを【創造】して部屋の扉にあるネームプレート入れに入れてそのまま中に入った。


机にベット、洋服入れ付きタンスクローゼット。


「しかも先払いにして貰ってよかった~後は自分で管理する分、元の世界とは違って家賃とか生活費を支払う必要無いらしいし」


ベットで一休みしようとしたところ―――


『ねぇ、レン君。レン君の錬金魔法で石鹸とかシャンプーとかいろいろ創造して貰っていーい?』


ドア越しにキョウコが話しかけて来た。


・・・そう言えばこの世界には魔法で体の汚れを奇麗にするからそもそも一部の日用品とか無いんだよな?


「分かった――創ってからそっちに持ってくよ」

『お願いね~』


風呂が終わった後は二人で夕食を作り、そのままテーブルに運んで食べ始めた。


商業ギルドは兼用で食材や自分が知っている日用品がずらりと並んでいたので買う分は買っておいた。


「メンバーが増えるにつれてどうするの?」

「そうだな・・・俺は元の場所には戻れないがそれまでの間なら良いぞ?」


食後は手分けして洗い物をしてそのまま作った歯ブラシと歯磨き粉で歯を磨いてから部屋に戻ってベッドに入り、そのまま寝た。

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