第27話:処女にウソはつけなかったぜッ!逆転満塁ホームラン!

年末近く。

日本で最も権威あるとされる映画賞で父は主演男優賞を獲得した。

ついに打ち止めである。

この賞に限っては、私と母は父にわざわざ授賞式に招待された。

まあ、手打ちも済んだことだし、父の晴れ姿でも見に行ってやるか、

と母と適当にめかし込んで、父が万雷の拍手を浴びるステージを見物してやった。

客席でやれやれと見つめる私と母。

技術賞の発表が終わって、いよいよ俳優部門。

無駄に盛り上がる会場。

見世物小屋だな。

コールされ壇上に上がる父。

赤のタキシードとは父らしい。

ケケ、気取ってやがる。

アンタの勝ちだよ。

私たちの負け。

父は、文芸ポルノという大博打おおばくちに打って出て、みごとAV女優スキャンダルをサヨナラ満塁ホームランで打ち返したのである。

見事だ!。

檀上でこれ以上ない笑顔で笑っている。

いい笑顔だよ。

花束を渡すのは次の映画で共演する例の女優・根本かすみ25歳である。

世なれた笑顔でニコニコしやがって……。

私と母は疲れて今までを振り返る……。

「あの人、嬉しそうね……」

母が疲れて言う。

「悔しくないの?、負けっぱなしで」

「映画が3本も決まった」

「許せるの?」

「しょうがないね。今回は負け」

「悔しいッ。絶対リベンジしてやるッ。ママのかたき取ってやる。絶対パパを頼らないで女優になってやる。そしてママに贅沢ぜいたくさせてあげるからね」

「フフ、ありがと。でも、私は甲斐性なし。これでいいの。貴方もパパとはヘタにかかわらない方がいいの」

「私、結局、パパの誘いには乗らなかった。パパと組めなかった。最後まで私にはパパが何者か解からなかった」

「案外単純なものよ。中身なんて何も無いんだから。フフフ」

「でも、パパも今回のことでは疲れてるはずだよね?。そうだよね?」

「ハハ、どうかな?」

「私たちだけ疲れるなんて不公平だよ」

「男の人って『棺桶かんおけまで持っていく話が2・3個ある』って言うからね」

「ママ……」

「もういいの」

「パパを許すの?」

「そうしたい」

「……」

「ねえ、彩ちゃん。これからもずっと一緒よ」

「仕方ないなあ。死に水は取ってやるかッ。ああ……なんか『終わった』って感じだね」

「何が?」

「私たち。それからパパも。これでパパも年貢を納めるよ、きっと!。見てッ、あんなに素直に笑ってるもんッ。花束なんかもらてさッ。根本かすみだっけ?。次の映画の相手役」

「うん。でも、パパ、あのと寝てるのよ」

「は……」

「村上君から聞いた」

「…………………………………………………………………………」

「どうしたの?」


オウッ!!、ファッキン・グウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!

FUCKIN’ GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOD!!


すぐさま楽屋裏で父に尋ねる。

メイクを落とす父は鼻くそほじりながら答える。

「あの女と寝たの?」

「悪いか?」

「ママは……?」

「また謝ればいい」

「じゃあ今までのは……」

「それはもう終わったじゃん」

「そうなの?」

「そうだよ。手打ちしただろ?」

「じゃあ、これは?」

「また別の話。新しい話」

「そんなものなの?」

「そんなものだよ」

「私が週刊誌に売ったら?」

「また映画で復活してやる」

「世間が許すの?」

「仕事のデキるヤツ、金を稼げるヤツには勝てない。男でも女でもな」

「悪いとは思わないの?」

「ぜんぜん。ママも納得済みだ。ママ何て言ってたよ?。食わせてもらう方が楽って言ってただろう。だから責任持って食わせてやる。その代わり俺は寝る。それだけだ」

「だけど世間の声が……」

「自分が気持ちよくならないヤツはバカだ。そんなヤツは牧師にでもなれッ」


キッターッ!!。これだこれだ!。これだよ!。これが欲しかったんだ!!。

父ちゃん、カッコイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!。

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