第26話:グッバイ・ヴァージン。妥協の産物としか言いようがねえよ。
ほどなくして、事務所の社長の仲介で父と母の手打ち式が
一度は離婚を決意した母である。
父としてはこれからの芸能活動において離婚はマイナスだ。
また新しいCMの話が来るかもしれない。
そこで、今の関係を持続することを確認することで、今回のAV女優事件に
用意がいいことで……。
私も、一応家族ということでこのドロドロの大人の話し合いに参加させられた。
もう、何を聞いても驚かんぞ。まったく……。
いきなり突き刺したのは母の方だった
「あのAV女優とは続いてるの?」
当然だ。ここが核心。
「まさかッ」
これまた当然父は笑って突き刺し返す。
嘘でも「ハイ」なんて言えねえよな。
流れるマヌケな沈黙……。
終わりを悟ったのか、やがて二人はお互いを清算し始める。
「君はもう働かないね?」
「お世話になります。そっちの仕事は?」
「映画の話が3本きてる」
「3本ッ……。またポルノ?」
「一般映画だ」
「すごい……。相手女優さん誰?」
「根本かすみ25歳だッ」
「ああ、あの娘……」
「近々、製作発表会がある。会わせようか?」
「結構です。悪趣味ね……」
お茶を飲む二人……。
社長も安心している。
徒労の静寂……。
終焉ってやつですね……。
「私、くたびれました。何も要りませんから、出来れば平和に暮らしたいです」
「分かってるよ。すまなかった……」
「珍しい。謝るなんて……」
「『頼めば鬼畜も謝罪する』ってか……」
「フッ、下らない」
「冗談だよ」
「『鬼畜』って自覚してるところは冗談になってないけど?」
「ハハハハハ」
「じゃあ、これからも稼いで下さい」
「分かった」
「よーしッ。いいんじゃないですかッ?」
と社長が締めた。
なんなんだこの小芝居は……。
母は無表情でさっさと出ていった。
父は得意気で居座っている。
私もアホらしくて出ていこうとしたが、社長に呼び止められる。
「おおおっとォ!。彩ちゃんにはまだ用があるんだよッ」
やっぱりね……。
当然この間の返事である。
女優になるか・ならないか?、である。
「お断りさせて頂きます」
「おいおいッ……!」
私はきっぱり言った。父が
でも、結論である。
まあ、ぶっちゃけ疲れた。
背骨ねじ曲がったよ。
母に対しても気の毒だし、何よりも今は父と付き合いたくない。
「良く考えろよ」
「もうじゅうぶん」
「チャンスだぜ?。みすみす
「残念だけど」
このおどろおどろしい世界から一旦片足ひっこ抜きたい。
父は魅惑的だ。セクシーだ。そして良い意味で危険だ。
けど、そのえげつなさを受け止めるパワーが今の私に無いのだ。
今は父を愛せない。
今は父に屈したくない。
そして今は安住したい。
もう、吹き飛ばされそう……。
「ごめんね、パパ……」
一人
ここは私も女の汚い手口を使った。
妥協の産物である……。
そして、もう一つ私はこの妥協の産物を産み落とした。
私は、新井渉にヴァージンをくれてやることに決めた。
なんとなく守り抜いたかどうか分からないけど、この私の17年間の処女も結局は妥協で捨ててやるのである。
そんなもんだろッ。
捨てっちまおう。
ヘタに冒険したくない。
安住したい。
それだけ。
ただ流れに乗る。
長い物に巻かれる。
めんどくさいから新井渉で捨てっちまう。
ただそれだけ。
面白くともなんともねえけど、これが今の私には楽だな。
まあいいだろ。
新井渉にくれてやるよ。
どうぞもらっとけアホ……。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます