第23話:世の中、上手くいかなくて当たり前。逃した処女卒業はデカいってか。

電話で母の窮状を伝えると、父は、かる~く笑っていた。

この時点でなんか嫌な予感がした。

もっと重大に深刻に構えて私の分まで心配してほしかった。

ああ……もう私は父のてのひらに乗っかっちまったのかなあ……。

父に、どうにか私のために心ある言葉を渡してほしい。

今はそんな「女の子」な気分なのだ。

でもやはり事務的な言葉だった。

「ハハ、そんなにひどかったのか?」

「うん、結構お金の損害が出たみたいで……」

「弁償かい?」

「ううん。その代わりクビ……」

「ふふんッ。これで二度と働きたいなんて言わないだろう」

「みたいね……」

ソファーで母がまだ落ち込んでいる。

でも、耳でっかくなって会話を聞いている。

カッコわりいィなあ、もう……。

歯痒いッ!。

私がチラッと見やったので、プライドを引っきむしられたのか、「お詫びを言う」などとぬかしやがる。

私はすかさずくぎを刺す。

「ケンカしないでよッ……」

「わかってる」

パツーンと強気に携帯を取り上げる母。

「ごめんなさい、心配かけて……」

携帯の向こうでなんか父が余裕ぶっこいて笑っている様子……。

「うん。明日、退職の手続きをします。……はい……。それじゃ……」

意外と早かったな。得意気な父のニヤケ顔が目に浮かぶよ。

私はすぐに代わる。

「ごめんね……。で、どうする?。2次会?」

「今日はママのそばにいてやれよ」

なにッ!?。

ちょっと待てよッ!?。

私は、戻ってまたあのめくるめく強欲ごうよくの世界に全身どっぷり浸かるつもりだった。

当然父も「戻ってこい」と言ってくれるもんだと思っていた。

それがまさかの〝母のそばにいろ〟?

冗談じゃねえッ!。

私はさりげなく必死に食い下がる。

「でも、プロデューサーの人なんか待たせたりしてるから……だから、だから……」

と、子猫のようなミャーミャー甘える声で可愛い娘を演じてに粘った。んだがッ

「ダメだッ。今日はママの近くに居ろッ」

と厳しく怒ったりなんかしやがるッ。

なんだテメエこのやろうッ!。

人がせっかく誘われて行ってやってんのにッ!。

ちょっと甘い顔すりゃ調子に乗りやがって。

私にだってプライドってもんがあるんだぞッ!。

誘えよこのやろうッ!。

2次会に来いって言えよバカヤロウッ!。

と内心強気に腹を立ててはみたりもしたが、核心は父の傘下に入りたいのだ。

もう、すっかり父の支配下に組み込まれたい心なのだ。

頼む、呼んで下さい。

私を貴方の女にして下さいってか……。

クソウッ。

それでも父はやっぱり譲らない。今度は冷静に低く

「お母さんのそばにいてやりなさいッ」

決まりだよな……。

負けた、負けたよ……、ズタボロによ……。

「わ、分かったよ……」

私は、失禁しそうな脱力で携帯を切った。

ちょっと痔も出てたよ……。

なんでここでやめるかねえ……。

母が自殺するとでも思ってるのかねえッ。

だったらとんだ取り越し苦労だッ!。

母は横でピョンピョン飛び跳ねてるよ。

調子いいんだから……。

女は嘘つきだねえ……。

泣きゃいいと思ってやがんだから。

コワイ……。

あーあッ。せっかくのスポットライトの大チャンスがッ。

父はさっき

「焦るな、こういうことばっかだぞ」

と説教めいたことを言ったが、そんなの知るかよッ!。

無性に腹が立つんだいッ!。

畜生!。

バッカみたいッ!。

母が「ごはん作ろうか?」と能天気にのたもうた。

アンタはすっ込んでてくれ……!!。

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