第21話:鮮烈デビューはレイプの香り。古くせえタイトルだッ。
夜6時。
会場のホテルはすでに華やかな芸能人で色めき立っていた。
私は真っ先に父を探した。
この精一杯キメた姿を観てほしかったのだ。
褒めてほしかったのだ。
父はどこだ?。
私は群衆の中を
必死でカッコわりィ……。
でも、父に会いたい!。
どこよ!。
もう母への意識はない!。
父への一本道だ!。
私の中から母が消えていく。
ついに私は父の支配下へ。
でも、気持ちいい!。
とうとう父にオトされた!。
征服されたのだ!。
でも、征服されて勝ったみたいだ。
なんて不思議な感覚!。
最高に気持ちいい!。
パパどこ?。
正装の男女がきらびやかに
探す私……。
「私のパパ……」
探す探す。
談笑するセレブでごった返す
ヤーヤー飛び
目を
その中をアップアップと泳ぐ私。
いったいどこ?。
刺すように私を
時々ぶつかっていく肩。
無視して歩いていく私……。
「!」
白いタキシード!。
顔は?。
パパだ!。
一直線!。
「パパッ!」
と私は叫ぶ!。
振り向く父。
「……」
柔らかい笑顔。
急いで駆け寄って真っ先に聞いた。
もう自分しか見えていない。
まったくバカッ。
自分、大好きッ!。
だから自分のこと聞くッ!
「どーおッ!?」
ドレスを恥じらいながらさする私。
顔のニヤニヤが止まらない!。
その私の暴走を横綱相撲で受け止める父。
「言葉は不要だねッ」
「ドキドキするの」
「僕もだよ。行こう」
父は、私の手を握り、エスコートして私を奥へと連れて行った。
奥の大物プロデューサーが集まる席で私のお披露目がされた。
自慢げに私を紹介する父。
私の胸元ばかり見るオッサンたち。
たいした
若いって得だねえ。
私は、
みっともねえッ。
でも、いいのッ。
もうメチャクチャにしてくれよ、ってか!。
私はプルンプルンの笑顔でジジィを転がし続けた。
すると、そこへ突然母からメール。
なんだ、こんな大事な時にッ!。
「仕事で大きなミスをした。今夜どうしても会いたい。家に帰ってきて……。母」
なんだこりゃッ?。
知らねえよ。
こっちはそれどこれじゃねえんだッ。
女優だぜ女優ッ!。
父が、
女として、いや、女優と扱ってくれている。
ホントに魔性の男なんだから……。
負けた……。
負けたよ、お
私は完全に母を捨てた。
女優になりたい!。
有名になりたい!。
注目されたい!。
チヤホヤされたい!。
自分大好き!。
ああ、もうたまらん!。
今度は母から電話が来た。
速攻切ってやった。
もう知らんよ。
だってついに檀上で私の挨拶が用意されたのである!。
始まる!。
檀上で司会者がごにょごにょ能書き垂れている。
「北島誠司の娘」ってのが気に入らないが、まあ、今日はいいだろう。
さあ、いよいよだ。
〝赤コーナー、250パウンドオオオッ!〟ぐらいのラスベガス級の盛り上がりになってきた。
ママ、ごめんね、ケケッ。
パパにやられちまったよ。
父は悪魔だ。
その悪魔に私は魂を売り渡しちまったよ。
さあ、ついに私の名前のコール!。
「北島彩さんですッ。どうぞ温かい拍手を!!」
ひゃーすげー拍手だ!。
うるせーッたら!。
そこへまたバチバチ花火のようなフラッシュ!。
目が
でも嬉しいねえッ!。
スシ食うか?。
いやああ、タマラン!。
業界用語で「マランタ」ってか?。
アホだな私、カカカカカカーッ!!。
さてさて、挨拶だ!。
おしとやかにやらないと。
よく耳の穴の中耳炎なおして聞いとけマヌケジジィどもよ!。
私はゆっくり発っしてやる。
「初めまして、北島彩と申します。私は……今日のこのスピーチが芸能界のデビューになるのかもしれません。そしてここから生まれてさまざまな人と巡り合うのかもしれません。そしてその方たちはやがては私の育ての親、芸能界のお父さんお母さんになるのかもしれません。でも、何十年たっても何百年たっても変わらないことがあります。それはずっと忘れないでいることでしょう。それは、私の父は北島誠司だということです。私は北島誠司の娘だということです。パパ、ありがとう!。私、パパの娘だよッ。どうぞ、これからも宜しくお願い申し上げまあああああすッ!!」
決まったな……。
ジジィ連中涙流してやがるよ、アホンダラ、カカカーッ!。
いやーッ、拍手喝采、割れんばかりの拍手、
気持ちいいねえええッ!。
やめられまへんなあッ!。
ってそこにまた母から電話だ。しょうがねえなあ。
…………。
まじかよ……。
青くなった……。
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