第20話:欲望の明確な対象。処女がなにを生意気に小難しいことを。

10月末から11月頭。

もうそろそろ年末の賞レースが始まろうとしていたところで、突然、父からパーティーに誘われた。

りを目論もくろんで、今回のグランプリをさかなに、芸能関係者を呼んで盛大に盛り上がるらしい。

そこで、なんと、私を女優として業界実力者たちにお披露目させたいという。

ついにきたか……。

デビューである。

しかも鮮烈!。

燃えるよなあ!。

私は自分の部屋で父から送られてきたドレスを見つめた。

今度は前と違って胸元が開いてウエストラインも強調されている。

挑発的だ、ヒューッ!、れる!。

さて、はたして私はこれを着るのか!?。

どうする?。

とりあえず鏡に合わせてみた。

ああッたまらん!

もうッ!、我慢しきれずにとうとう着た!。

似合いすぎる!。

父の昔の映画に「女は魔物だ」というくさいセリフがあったけど、なるほどこういうことねえ……。

いや、まいった。完全に浮き足立ってるよ。

もう、これは行くしかないだろう!。

もう、俺、やるぜ!。

と、そこへいきなり母の細い声。

「彩ちゃん……いーい……?」

辛気臭しんきくさい顔で入ってきた。何だろう?。

「パーティーいくの……?」

「行くよ」

と即答したが、ずっと青い顔してるので聞いてみると、

今日は、鉄道オタクのイベントに弁当店を出店することになっていて、

その現場で、仕入発注業務を初めて自分がやったとのこと。

それで、上手くいくかどうか心配で、

もし何かあった時にそなえて私にずっと家に居てほしいと言うのだ。

そんな、アンタ……。

もう私の気持ちはパーティーで父に会うことにつんのめって傾いている。

ここで変更は出来ないよ。

「ごめん、今日ははずせないッ」

はっきり宣言すると、母は悲しそうに

「女優やりたいの……?」

「うん……」

「パパの誘いに乗るの?」

「うん……」

「たぶん、こうなると思ってた……」

母は孤独の底なし沼にダイブした。

ごめん、ママ。

今、この欲望を打ち消せるものはこの世に存在しない。

私は衣装を持って美容院へ向かう。

それでも母は玄関でしつこく止める。

「できればすぐに帰ってきて……」

「それは出来ないよ」

「そんなに嬉しそうにしなくたって……」

「お偉方えらがたさんに会うんで緊張してるだけよ」

「ママ、寂しい……」

「もうッこらえてッッッ!」

怒鳴った。

とうとう私は母を厄介者にして父のもとへと急いだのである。

解放された私は、ドレスアップした後、思わずタクシーの中で一人雄叫びを上げた!。

「わ・た・し、女優よッ!!」

まゆをひそめて私を傍観ぼうかんする運転手。

バカである……。

対照的に、母は、きそうになりながらイベント会場へ急いだ。

初めて発注を任された責任感に押し潰されそうになっていた。

この現場に弁当何個いれるか?、という判断は現場スタッフの裁量で行われるが、

その発注個数の根拠は経験と勘である。

一応、母もそれだけ認められたわけなのだ。

検討を祈りたい。

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