第18話:人生も処女卒業も、結局、バクチなんだよ!

この私への宣言かつ押しの一手からの父の快進撃は、

起業したての「攻めまくり営業」のようにズドンズドン展開された。

ノリまくっている男。

昼はアフレコ。夜は編集。深夜は接待。

とにかく完成目指して働きまくっている。

すげー集中力。

こんなマジメなの初めて。

スタッフもみんな付いて行っている。

賭けてんなあ、この一発勝負に。


そして数日後、ついに、六本木のど真ん中で、立派な太い首を伸ばして力をみなぎらせた何万羽もの大白鳥おおはくちょうが、その大きなはねを羽ばたかせ、満天の夜空へ咲き乱れ飛び立った!。

なんて美しい!。

純白の世界!。

綺麗だ!。

本当に綺麗だ!。

舞い乱れるスタンディングオベーション!。

マスコミを招いての一大試写会。

大一番。映画は絶賛された。

父は勝ったのだ。

きらびやかなホテルの大広間。

囲まれる父。

試写会終了の打ち上げで父はわざとじらしてニヤニヤ左口角こうかくあげて余裕をもって構えながら関係各位に挨拶している。

ホントはウキウキ気分で今にも跳ね上がって大気圏を突破しそうな胸の内なくせにッ。

コノヤロウ……。

まあ、ここでハシャがないからモテるんだろうな。

よくやるよククッ。

一方、黙ってられないのが母だよね。

「あんなの文芸じゃない!。恥っさらしよ!」

と、ひがみ根性をかますと

「文句があるなら絶賛している評論家に言え」

と、ここは冷静な父。

するとまた母、

「マスコミは裸ならニュースにしやすいからね。でも、世間はどうかしらね」

と、嫌味……。

また始まるよ……。

だから村上篤志が必死で母をなだめて引っ込める。

逃げるように化粧室へ入っていく母……。

私はトホホと見送るよりほかない、

と、そこへ父がズンッと顔面アップで近付いてきた。

「率直な感想が聞きたい!」

困った。

めようかどうしようか?。

手放しで褒め上げると調子に乗るだろうな。

でも、き込まれたのは事実なんだ。

深くは理解できなかったけど、単なるAVとは明らかに違った。

文芸誌や国語の教科書で読む純文学を思わせる感動があった。

そして、父が性格俳優的な深い演技をしているのも理解できた。

スクリーンでのあの遠くを見つめるような眼差し……。

父はこの映画一瞬の勝負に賭けた。

見事だ。

だから、私は母をフォローしきれなかった。

たとえAV女優と浮気してようがね……。

「よかったよ……。成人映画だから、何かと騒がれるだろうけど……、でも……、作品の内容とパパの演技は褒められるだろうね。まあ、家族としては恥ずかしいけど……?」

「合格かい?」

「まあね……」

「それが聞きたかったッ!」

父は満足の深呼吸で胸をふくらませて群衆の中に溶けていった。

悔しかった……。

論理的に認めちまったな。

褒めちまったよ。

褒めざるを得なかった。

これをけなしたらクレーマーだよ。

そんなことしたら今度は私の品位が下がる。

それじゃすっかり負け犬になってる母と同じだ。

でも、絶対に認めたくない感情があった。

でもでも、その感情ってやつを見せると、白旗上げた降伏になるので、それだけは必死にこらえた。

悔しい……。


次の日、学校にいくとまたまたケンカである、やれやれ……。

なんと新井渉と永山先輩。

永山先輩が水泳部の練習が忙しく、生徒会の会合に出席しなかったことに新井渉がイチャモンつけているのである。

でも、永山先輩は大会が近く、すでに学校の許可を取っている。

それでも新井渉は何か言いたいのだそうだ。

男の見栄ですな。

アホらしい。

ぜんぜん眼中にない永山先輩。

それが更に新井渉を怒らせる。

だからって横に居る私に文句たらたらゲロかれてもねえ……。

「もういいじゃない。先輩、謝ってんだし」

あんまりしつこいんで思わず永山先輩をフォローした。

でも、永山先輩は私の心の機微など感じ取りもせずとっととプールへ向かった。

って、おいッ!。

まさかの無視かよ!。

なんだか燃えてドキドキ胸が高鳴った。

マジか……。

濡れちまったぜ……。

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