第17話:ビビる!。って認めたくねえよ。でも、マジ、ビビる。

いや、まいったよ!。

ビビったね!。

しつこいけどマジビビったよ。

モノホンの撮影現場の緊張感に……。

せまくて暗くてにおい立つような空間で役者はみんな裸になって誰一人笑わずに真剣に打ち合わせしてるもんなあ……。

いや~、私のひやかし気分の薄ら笑いは4倍の風圧で返りちにあったよ。

凍りついた……。

遊びで入り込むところじゃない。

父は慣れて談笑しているが、私にはそんな余裕はない。

母は、一応業界人の妻なので、ある程度は慣れていた。

大人の世界だよなあ……。

処女卒業もこんな感じなのかなあ……。

ブルっちゃう。

真剣に見学したよ。

でも、そんな、せっかく人が真剣に見入って感心しているところで突然ケンカが始まった。

なんと父と母である。

なんだよ、こんな時に……。

最近の父の陽当ひあたり良好ぶりについに母の鬱憤うっぷんが爆発したのである。

「濡れ場ばっかじゃないのッ!」

「ポルノなんだから当たり前だろ!」

「下品ッ!」

「シナリオの読み込みが足りない!」

「これじゃCMの話が流れる!」

「ここでそんな話するな!」

「娘の前でしょ!」

「これでメシ食ってんだッ、バカ!」

やれやれ……。

おい、みんな、笑ってるよ……。

情けない。やっぱ泣ける……。

まあ、母が怒るのも分からんでもない。

ここ数日母は完全に父の支配下にある。

まさに、メシ食わせてもらってるって感じだ。

父も調子こいて浮気のことなんかもう完全に無かったかのように振る舞う。

そりゃ、ムカつくよな。

母は、あえて現場でみんなの前で恥をかせようとしたんだろう……。

父も職場で夫婦ゲンカなんか吹っかけられたらメンツ丸潰まるつぶれだから負けずにムカついている。

みっともねえなあ、人前でテメエんちの家計の話なんて。

結局、母がキレるかたちで撮影所を去っていった。

まるでプロレスだな。

私は残ったよ。

まだまだ映画に興味があったからね、ヘヘ。

例のプロデューサー大森幸平からワンシーン出てみないかと言われた。

待ってましたよ。

〝そんなに言うんなら出てやるよ、早くやろうぜッ〟てか。

んが、ところが父が強く反対した。

しかもがらにもなく真剣に。

「中途半端にやると恥かくぞ!」

口調がキツい。場が息をんだ。

母への複雑な感情があるんだろうな。父なりに虚勢を張ったのだと思う。

それかホントに「芝居をナメるな」と叱責しっせきしたのかもしれない。

まあ何にせよとにかく男のプライドというのはややこしいのでここは一旦私が引き下がることにした。

それからも撮影は夜まで粛々と続いた。

家に帰って父が珍しく私の前で酒を飲んで上機嫌に喋くりまくる。

でも、目は笑っていない。

怖えな。チビるよ、その目線……。

「試写を観て判断してくれ。傑作には誰も文句は言えないはずだッ」

と強く宣言した。

どうやら私に自分の仕事と実力を認めさせたいらしい。

「スクリーンの俺を観てくれ」

と力説する。

あまりの迫力に私は

「う、うん……」

と押されてしまった……。

グイグイっていうのかなあ……。

理屈でなく心地いい。

なんか、私の女が目覚めた感じがする……。

が、まだまだ。

こんなとこでは認めないよ。

私もまだまだっぱねる……。

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