第13話:私ってそろそろ出番なの。嗚呼ッ!、チヤホヤされてえッ!。

パーティーも終盤。

父が急に背広姿のオッサン紳士と話し出した。

頭ペコペコさせている。珍しい!。

どういうこと?。

さっそく村上篤志が近づいてご丁寧に解説する。

聞くところによると、父が頭を下げているオッサン紳士は映画プロデューサーの大森幸平56歳で、

企画進行中の文芸ポルノ映画の主演俳優が急病で降板してしまって困ってるらしい。

そこへ父は自分を後任として売り込みしているという訳だ。

頭も下げるわけだ。

文芸ポルノ?。

よく分からんジャンルだ。

ポルノでもない。AVでもない。一般映画でもない。だけど芸術映画なんだと……。

どういうこと?。

よく分からんが、村上篤志はめったに巡ってこないチャンスだと興奮する。

父は相変わらず大森幸平に頭を下げ続けている。

「俺のスキャンダルを利用してくれ」と懇願しているらしい。

したたかというか毒々しいなあ、もうッ。

そこへ、もっと毒々しいのが村上篤志。

こいつは更に厚かましい。

なんと、この私に助け舟を出せだと。

今、大森幸平のもとへ行って、

「私も父の出演を応援している」

とフカしてこいという。

「何で私が!。ポルノ映画なんか!」

怒ったよ、はっきり言って!。母がまた恥かくじゃんか!。

「アンタ、マネージャーでしょう?。ウチの家庭メチャクチャにするつもり!?」

「シナリオを入手した。間違いなく名作になる。お父さんが復活するチャンスだ!」

「エロ映画がなんで名作になるのよ!」

「アンタにはまだ分からん。後で過去の名作を見せる。出演すれば必ず賞を獲る。演出とシナリオ通りに演技すれば確実に評価される。ここは攻めに出るべきだ!」

「じゃあ、その名作を見てから……!」

「今、ここに、そのプロデューサーがいるんだぞ!。今、やらなくていつやるんだ!。たまにはこっちの言うことも聞いてくれよ!」

「『こっちの言うこと』!?。よく言う!。自分でスキャンダル作っておいて!」

「金が入ってくるんだぞ!。CMも7千万取れる!。お母さんも安心する!。頼む!。家族のことを考えろ!」

「考えてますッ」

「じゃあ、を捨てじつを取れ!」

「『実』?」

「そう!、実益!」

イッツ、ガビーン!。

クラっと心動いたね。

『実』かあ……。

確かに体裁つくろってる場合じゃないな。

父の俳優生命だし、我が家の生活設計だ。

母の自立はいつになるか分かんないし、私はまだまだ未成年。

実質的な食いぶちはまぎれもなく父のギャラだ。

イコール「売れるか売れないか」だ。

こりゃ、真面目に考えた方がいいな。

その、芸術ポルノの過去作品を観てみたいけど、とにかく、今日はプロデューサーと会える年に一度のチャンスだし、父のスキャンダルをチャラにする絶好のタイミングだし……。

じつ』『実入みいり』ねえ……。

金を欲しがる母のことも考えて、ここは大人になるか……。

「わかったよ……。じゃあ、ちょっと母の意見も聞かせてよ……」

「お、おう……」

私と村上篤志は急いで母のもとへ向かった。

「やめてよ!、みっともない!」

と母は激怒する。

当然だろうな。

〝アンタ、安定した金が欲しいんじゃないんかい?〟

と悪タレつきたくなるけど、母の気持ちも痛いほど分かる。

不倫スキャンダルの後にポルノ映画だもんなあ。

そりゃ、怒るだろ。分かる分かる。

それに、私も、「自分の目の前の瞬間しか生きていない父」に荷担かたんしたくないし、

そして何よりも父のテリトリーに取り入れられるのがたまらなく悔しい。

ほんと……、なんだかなあ……。

父にはかれるが腹立つし、母は愛すべき人だけど歯痒いし。

もっとちょうどいい人間なんていないのかねえ……。

そんなヤツいないか……。

そんなヤツいたら誰も人間関係で苦労しない。

父に協力するのは理にかなっている、でも母の気持ちと立場を察したい。

ここは母だ。がッ……。

でも、やっぱりここは金だ。

来年は私も進学シーズン。まとまった金が要るんだ。

私は父に協力せざるを得ない。

だから母にツッコむ。

「ママ、だったら二人でバイトでもして働く?」

「彩ちゃん……」

母はこの一言で沈没した……。

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