第7話:父の落とし穴。処女を付け込まれる。チヤホヤされるって最高じゃね?。

ある日、父が、突然、自分の撮影現場に遊びに来いと誘ってきた。

『文○砲』発覚時から撮影中の映画で、

クランクアップの打ち上げがあるから「飲み食い」にでも来いと言う。

絶対イヤだ!でもドキドキ!。

何なんだこの感情は!?。

父が完全に私を巻き込んで私を征服しようとしているよなあ。

私が母側に付いているので家で暮らしにくいらしい。

父に従うのは嫌だけど、でも打ち上げは行ってみたいなあ。

マネージャーの村上篤志あつし38歳が

「俳優の○○さんに会えますよ」

とニヤニヤ言いやがる。

この腰ぎんちゃくが……。

と言っても一度は芸能界でチヤホヤされてみたい。

こういうとこ、処女だよねえ、私。

でも、「大御所俳優のバカ娘が」とイジメられるだろうし、それに母にも悪いし。

私が父の支配下に入ったら傷つくだろうな、やっぱり。

スポットライトを浴びたいやら、硬派に突っぱねたいやら……。

とにかくドキドキとモヤモヤ。

でも、やめた!。

父の、私を抱き込もうという作戦には絶対に乗りたくない。それはダメだ!。

ところがジャーマネの村上篤志がしつこい。

「父のピンチを救ってくれ」。

仲睦なかむつましい親子を演出して父のイメージアップを図ってくれ」

「彩ちゃんの美貌でプロデューサーのご機嫌を取ってくれ」

「彩ちゃんのカリスマを現場のみんなに見せつけてやってくれ」って、

最後の方は私のお世辞ばかりになっている。

まったくッ。そんなに言うんなら行ってやるよ(早く紹介しろよッ)、

みたいな気持ちに私もこの太鼓持たいこもちマネージャーにオトされるハメになった。

悪い気はしねえよなあ。

父も嘘だと分かってても頭下げてるし、

ここはいっちょ業界ってやつをのぞいてやるか……。


って面白いんでやんの!。

いやーチヤホヤされたよ、されまくったよ、まったく!。

気持ちいいじゃんッ。

〝あたし女優よ!〟ってな感じか!。

撮影スタッフから美人だとか美少女だとか、

そんでもって生まれて初めて「色っぽい」なんて言われたよ。

ちょっとまいったよなあ……。悪くないよ。

思わずペコペコ笑顔で会釈えしゃくしちまったよ。

美味おいしいスイーツも食べられたし「余は満足じゃ」ってちょっと浮き足立ってたら、父が「どうだ、気持ちいいだろう!」なんて調子こいてぬかしてきやがったから一気に冷めて

「こんなことでゴキゲン取ろうなんて甘いからね」

とガツーンと言ってやった。それでも父は

「ヘヘ、まあいいじゃないかッ」

と強い水割りを一気にあおる。

ちょっと不気味だった……。

危険な色気があった……。


その祭りのあとの私の感情は複雑だった。

シラフだからなあ、考え込んじゃったよ。

父の娘だって紹介された時は正直うっとうしくてくやしかった。

でも、美人だ、スタイルいい、肌がキレイなんて持ち上げられたときはマジ興奮したよね。

鼻息荒くなってたもん。

その白と黒が入り混じって、とにかく帰宅してからの私は、体中の血管がふくれ上がってたよ。

母は、父に付いていった私に複雑な感情を持ってた。

たぶん裏切られたような感覚を覚えたんじゃないかと思う。

でも、

「お父さん、貴方に迷惑かけたって、気をつかっていたのよ」

と父をフォローする。

そんな母にカチンときた私は

「ママ、パパにゴマすったって何も返ってこないって!。たらし込まれちゃだめだよ!。いつでもケンカするスタンスでいなくちゃ」

「ごめん……」

ったく……。

ってムカムカしていると次の日の朝、こんもり咲き乱れたバラの花束が私宛てに届いた。

「昨日のお礼に」

と父からのカード。

 不覚にも涙が出た……不覚にも……!。

大量の真っ赤なバラの嵐の迫力に情けないことに感動してしまったのである。

何なのこれ……。茫然唖然ぼうぜんあぜんとするよりほかない……!。

こういうとこ、処女だよねえ。

それとは正反対にため息つく複雑な母……。

6月だよなあ……、じめじめする……。

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