第5話:処女の始末。「古い傘の柄についた保護ビニールみたいなもん」by 綿矢りさ

その私の学校の話であるが、私も一応年頃の女子高生。

んで、処女の話である。

ここら辺で処女を誰にくれてやるか、

誰で捨てるか、

誰にもらってもらうか。

私の処女。

一応私は世間で言うところの美人らしい。

超男前の父と瓜二つだもんな。

私はこんな眉毛キリリキリイッの時代劇スターみたいな顔は好きではないが、

四六時中、父の仕事関係者から「娘さん美人ですね」としみじみ言われるんで、

私もさすがに17年生きてきて客観的に自覚している。

さて、果してその美人「らしい」私の処女をどうするか?。

やっかいだよねえ、

もうこの辺で始末したい。

一応彼氏らしい同級生はいる。

新井わたる17歳。

こいつとは同じ軽音楽研究部でロックのアナログ盤収集っていう金持ち趣味が共通で付き合うようになった。

「研究部」っていうのが情けないよな。

ロック好きなのに楽器弾かねえんだもん。めんどくせえから。

まあ、インテリだよね、新井渉は。

ちょっと積極性に欠けるけど、顔もそこそこだし、まあ、こいつで妥協するかなあってな感じだ。

処女ってそんなもんかねえ……。


憧れってもんでもないけど、気になる人はいる。

3年の水泳部キャプテンの永山りょう18歳。

ベラベラとロック理論を繰り広げる新井とは対照的に、

この人はまったく喋らず、黙々といつも独り練習をしている。

いつでもどこでも練習している姿。

プールは当たり前だけど、冬は走り込み、雨の日は筋トレ。夜もミーティング。

とにかく練習するよね。

はじめアホじゃねえかコイツ?、とせせら笑っていたけど、

でも、あまりのひたむきさにだんだん笑えなくなって、

しまいには「先輩、カッコいいじゃんッ」なんて気分になってしまっているからスポーツマンは怖い。

決定的だったのが、グラウンドでぶつかったとき。

カッチカチの厚い胸板が私のほほにべちーんと当たったとき。

突然ビンタされて肛門に電気が走って思わず痔がモリッと出たよ。

やられた!。

あれ、決まりだったよな。

「あッゴメンッ!」

と、それでも、学校では美人と騒がれる私には目もくれずまた黙々とジョギングを続けてくんだから……。

そんなッアンタッ。

無視されたらされるほど気になるってもんじゃないですかッ。

それからだ。私の視界に永山先輩が入り込んでくるようになったのは。

インテリロックおたくとスポーツバカ……。

迷うよねえ……。

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