11: 緩む口元~現~
緩む口元、笑い出した霊。
「…ッフ…ムキになって…
死神…なんでそんなに可愛いんだ?」
「な!お前、僕を馬鹿にしてるだろ!」
「え?してないし」
「…時間になりますよー…」
呆れたようすの死神仲間が優しく声をかけてくる。
「あ!うん!仕事だ」
霊のペースに引き込まれていたけれど、
仕事場に着いたんだ。
今から死者を送り出すいつものお仕事。
切り替える為に肩に置かれたの霊の手を退けた。
それでも優しい笑顔の霊。
「…仕事頑張ってー。
あ、俺、買い物でもしてよっと」
「…めずらいな。
あ、洗濯洗剤が切れそうだから、」
「ああ分かってる。買っとく。あと塩胡椒も」
…記憶が無くならないわけでは無い。
霊に関する事ではないと、以前と同じで
全く記憶から無くなる。
今朝気付いた洗濯洗剤でもぎりぎり覚えていたが
仕事のあとでは忘れていただろう。
「じゃあねー。今日は先に帰ってるねー」
そう言って手を振り去ろうとした霊、が、
Uターンして駆け戻って来るとそのまま…
「魔除け」
「‼︎」
頬にキスして逃げていった。
「…なにが魔除けだよ…」
「ハハハ…自分が'魔'なのに…」
「え?アイツに邪悪要素はなにも、ぁ、いや」
仕事仲間にわざわざ反論する必要なんてないのに。
赤くなりそうな頬が余計赤くなりそうだ。
「ハハハ…同棲されて…
お付き合いされてるんですね…」
「ハハハ……」
同棲ではないような…けどキスを繰り返す仲…?
いや…最近はしていないか。
同棲、か。かなり二人で上手く住めている。
僕の任務中、霊はフラフラ出かけている様子だけど
僕が帰る頃には帰宅していて
まるで僕を待っているようだ。
洗濯が済んでいたり、掃除がしてあったり、
読書やテレビ鑑賞をしてたりして…
僕が腹を空かせて帰り『お腹すいた』と嘆くと
一緒にキッチンに立つ。
食事の好みが違うから各々好きなものを作るけど
邪魔したり、時には分け合ったり、
2人で遊びながら料理し
食べる物は違っても食事の時間を共にした。
今日も僕の帰りを待ってくれるんだろうか。
'話相手がいる生活、
衣食住を共にする相手がいるって悪くないな'
なんて思いながら。
数時間後。
捕まえた悪霊を退治し終えたら帰れる、と
油断したのがマズかったのか……
何日も前に霊と深く重ねた感触が残るこの唇に
悪霊が無理矢理唇を重ねてきた。
…微かに視える悪霊の記憶はどす黒いながらも
霊の記憶と同じような風景で…
あの、僕に似た…'殿下'の姿。
そして、男同士、身体を繋げて喘いでいる。
…吐き気に襲われた。
…目眩が酷くなる。
意識が遠退きそうになりながら、
死神仲間にも協力してもらい悪霊を退治した。
目の前…この世界から消した。
…さっきの記憶、風景も僕の記憶から
消えればいいのに…
「おい!」
「あっ」
「なにがあったんだ?!」
急な叫び声に驚いた死神仲間や僕の前に現れたのは
声の主、霊。
そして僕の身体にタックルするように
飛びかかって来た。
「…ッ…なんでもな…」
「え?どうして…動けるか?苦しいか?」
どうにか平然を装いたいけど…
全く起き上がれそうも無いし、
呼吸も浅く苦しくなる。
身動きが取れない僕の顔を掌で包んで、
凄く心配して青ざめる霊の顔が目の前に…
「実は…今、悪霊を捕らえて退治する時に…
先輩が…キスを…されてしまって…」
「…は、キス?」
「そしたら…死神の最低限の精気が
奪われてしまったみたいで」
「…ッ休めば楽になるはずだから…」
霊と死神仲間が話す中、
やっと僕も…一言…会話に入れたけれど…
「そうなのか?」
「はい…おそらく」
また答えられず、死神仲間が答える。
話をしたくても苦しくて、気持ち悪くて、
悪霊の記憶が悪夢過ぎて……
僕に似た男、'殿下'は最低な奴なのか…
そんな男に霊は傷付けられてこなかったのか…
どうして霊は僕をこんなに必死に心配してるんだ…
動かせない僕の体を力強く抱いてくるから
その力に身を任せると
ほんの少し気持ち悪さが治ったように感じて
何も考えられなくなった。
「…治るまで死神の任務は任せたぞ」
抱きかかえられ、こんなに心地良いのは多分
飛んだり瞬間移動してフワフワしているからか…
金縛りにあっている感覚でも安心出来るのは
霊が家へ連れて帰ってくれていると思うからか…
思い切り顔を近づけて僕の様子を伺ってくる霊。
見えるわけないのにそう思うのは僕の願望か。
唇を重ねるのなら、霊がいいと思う。
これも願望からか…
そっと唇に軽く何かが重なる感覚。
「…ん…」
呼吸がしやすくなって、胸が落ち着いてくる。
「…ッふぅ」
また唇に、柔らかく、懐かしく、重なる感覚。
深く呼吸がしやすくなると、
気持ち悪さが引いていく。
フワフワ抱き抱えてられていた体が
ベットに沈んでいく感覚。
首や頬に触れてくる熱い手。
…脈、を測られているのか。
「…俺がついていればこんな事には…」
微かに霊の声が遠くで聞こえる。
近くにいる筈なのに…
声をかけたいのに、声が出ない。
「…ふぅ…」
「なぁ、早く元気になれるよう…
俺の精気があげれるか試してもいいか…?」
「……」
「試すだけ。…それに俺の記憶が見れる程、
意識も元気ないしな…」
「……」
声が出せないどころか唇も動かせないでいると
また唇が重なった感覚。
今度は深く。
これはもう、想像の感覚を越えて実際の感覚で…
ピクッとやっと自分の唇が動いた。
反応した。
すんなりと霊の唇、舌を受け入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます