10: 重なる唇~現~

*現世*


重なる唇がそのまま深くなりそうで…

どうにか抵抗して霊の顔を押しのけた。


「…ッ確かに僕に似た男は笑顔も爽やかな男前だし

お前は幼くて可愛いけど…

全然18禁じゃないじゃないかッ…」


「まだ初めて会った日の記憶しか見てないのか?」


「ああ…そうみたいだな。

それにしても凄く鮮明に覚えてるんだな…」


「そりゃ……瞳の中まで覚えてる…ん?可愛い?」


「…なんだよ」


「俺が可愛い?」


「子供だから可愛いじゃないか」


「…アンタもそう思うのか?」


「なんだよ。悪いか?」


「ん…散々子供扱いされて嫌だったけど…」


「そうなのか?…性格悪かったんだな、その男」


「いや?心も綺麗だったと言っただろう?」


「はぁ……」


「そんな深いため息…」


「もう分かったから。

その男と似てるからって僕をからかうな」


「それは違う。

…似てるけど、違うから俺の過去を知って欲し…」


手慣れている霊と、そんな霊にうろたえ、

流されてしまう自分に腹が立ってきた。

…記憶が無いから初めてのような行為なのに

霊は僕に似た男と何度も…?


間近で霊を睨んだ。

何故か涙まで溢れてそうな栓を必死に締めながら。


「18禁、ちょっと興味が湧いたけど結構だ」


「やきもちか?」


「ッな!」


「昔の男にヤキモチをやくな」


「なにを?!僕がまるで今の男みたいにッ」


ニヤニヤと余裕そうな霊。


「ん。可愛いと言われて嫌じゃなかった」


「はッ?僕はお前の子供の時の事を言っただけで、

今のお前はその偉そうな態度が気に食わない」


「まぁまぁ照れるな。キスを繰り返す仲だろう?」


霊の逞しくて長い腕が優しく僕を捕らえた。

そっと抱きしめられたのに、抵抗が出来ない。

…霊は'殿下'じゃなく僕見ているんだろうか…?


「…もう過去は見ない。もうキスしないぞ」


「そうか。まぁいい。

俺を知って欲しいと思ったけど、

こんなヤキモチやかれたら…」


「だからヤキモチではッ」


「はいはい」


抱きしめられていると顎がちょうど霊の肩に。

霊の背丈は自分と同じくらい。

記憶とは別だし…胸がなぜか苦しくなる。

知りもしないのに霊の成長を感じて不思議な感覚。


「家に帰ろう…」


「…'僕の'家だし、ここも家だし」


「'2人の'

…何食べる?何か作ってやろうか?」



2人一緒に同じ屋敷で日常を過ごした。

唇を重ねる事はせずに…。

そして何故か霊が来た日から今までの記憶がある。

僕が仕事の時、死神仲間や死者を威嚇するように

霊は僕の後ろから肩を抱く。

そんな霊の態度に呆れつつも慣れてしまった。


「…毎日ついて来なくても…」


「え、だって暇だし。

なんかこれが俺には懐かしいというか

合ってるというか…」


肩を抱かれたまま仕事に向かう。


「暇つぶし…」


「いやいや、ボディーガードだよ。

なんで男からも女からも狙われるのに

いつもノーガードなんだか…」


「別にノーガードではないし」


「そうか?まぁ俺が守っていれば

アンタも仕事に専念出来て楽チンだろ?」


「…つくづく殿下という男に仕える魂なんだな。

まぁそれを僕に置き換えられても困るけど…」


「だからぁ、ヤキモチやくなよ」


「はい⁈困るって言ってるのに

なんでヤキモチに聞こえるんだ」


「フフッ俺にはそう聞こえるんだ。悪いな。

そして確かにアンタを守るのが楽しい。

…代わりなのかな…」


「なのかなって…お前は…」


悪びれもせず満面の笑みな霊を見つめて

ため息をついた。


「アンタだから守りたいし、一緒にいたいんだ」


「ッ…はぁ…」


破壊力がある笑顔に自分が破壊されないように、

ため息で誤魔化す。


「アンタは俺の過去を知らなくても、

今を知ればいいし」


「ッ…はぁ…」


「おはようございます!」


仕事場に着き、死神仲間が挨拶をしてきた。


「おはよう」


「やぁおはよう!今日はどこのどいつだ?」


「うるさい。お前には関係ないから黙ってて」


「え、だってどうする?

俺みたいなカッコ良い奴とか、

幼い頃みたいな可愛い奴だったら…」


「はっはっは!お前みたいな奴が来たら

少し乱暴にしてしまうかもな。

けどなんの心配も要らない。僕は優等生だから!」


「嘘つくなよ。乱暴って…ぁー…そういう意味?

俺で満たされない欲求を…」


「は?何⁈欲求とか意味分からないな!」


「……」


死神仲間と目が合った。

驚いたような、呆れているような

なんとも言えない表情で…

けど明らかに笑っているように見える。


「…クックッ…欲求不満…

もうキスしないって言ったのはアンタだよ」


「…!」


…死神仲間、ビックリした様子だけど、

完全に呆れられたな…


「だからっ意味が分からないな!

黙っててくれるかな⁈」


「……」


死神仲間の顔色の変化など全く気にする様子も無く

後ろから僕の肩を抱いたまま覗き込んできて

目を見開き、口を一文字に閉じた。


「…ふざけてるな…」


大きな目を見開いてプルプル首を振る霊。

長い年月暇してきた霊にとっては

僕をからかうだけでも楽しいのかも知れない。



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