8:砂埃の中~前.現~
***前世***
砂埃の中、逞しい男達の叫び声がリズムよく響く。
そんな広場の片隅で、ただ剣を振っている視界。
何かの大会のような、ただの稽古のような…
近くに立つ建物は伝統的な造りで、
垂らされている旗もカラフルではあるが古びていて
男達の服装もかなり歴史を感じる。
何十人もの男達が重そうな剣を振る中、
目の前に颯爽と綺麗な身なりの男が現れた。
回りの男達とは一瞬で身分が違うのが分かる。
動きも優雅だし肌も透き通っていて…
……顔は…僕に似ている気がする……
「きみ、腕前は?」
「……」
僕に似た男が訊ねてきた。
その仕草…声まで僕に似ている気がする。
黙っている霊は剣を下ろさない。
霊からの景色、視線は男達より少し下。
視界の主である霊からは幼さを感じるけれど
物おじしないのは分かる。
適当に振り上げている剣を恐れてか
近づいて来た男の隣から、付き人のような男が
身を守ろうとするが、
それを振り切って霊に近づく男。
「…部隊に入りたくはないの?」
「別に。なにアンタ」
「部隊の高い賃金、惹かれない?」
「…別に。部隊に入ったって
王だか皇子だかのお飾りだろ…」
男は二十歳前後くらいだろうか。
霊はそれよりも四.五歳低い気がする。
「飾りじゃないよー?皇子直属の部隊…軍隊、
ゆくゆくは国の軍隊のトップになって…」
「ただ頭数が多けりゃいいんだろうし、
俺は厳しい規則とか無理」
「え、部隊に入る気ないのに何故ここに?」
「…だからアンタなに?」
霊とこの男は初対面のようだ。
何者だかどんな身分だかも分かっていないらしい。
気安く話しかけてくる男に腹が立ったのか、
霊は男が持っていた剣を自分の剣先で持ち上げ、
向かい合い、2人の顔の前で剣を交わした。
「お?やるか?
私に勝てばキミの規則は緩くしよう」
「…アンタ、お飾り部隊のお偉いさんなの?」
「ああ、お偉いさん?だけど、
手加減しなくてもいいぞ」
少し離れて見ていたお付きの人が
止めたそうに見守っているが、
実際に止めないのはこの男の権力のせいか…
心配無い程の剣の実力を持っているのか…
スムーズに、そして力強く動く霊の腕。
かなり訓練された剣捌きな実力は分かったが、
対等に動く男の剣捌きは華麗で
流れるように無駄が無く見た目より力強かった。
暫し剣を交わすと注目され始めた2人。
その注目度の高さ、周りの視線に驚いて
気を取られる霊。
「…もしかして皇族か?」
「…ああ、キミは
誰の部隊の試験を受けに来てるんだ?」
「第一皇子。…お前か?」
霊が一瞬怯み、剣を落としてしまった。
その様子に満足気な男。
「キミは厳しい規則の隊員だ。
それとも放浪人になる?」
「…チッ」
男を見上げる霊の視線は動かず、
明らかに睨んでいる。
それなのに鼻で笑う男は、
僕に似ていても偉そうでムカつく態度だ。
「フッ、威勢はいいんだな。
もしかして私が皇子だから怯んだのか?
キミのような子供に負けるわけないのに」
「…放浪人でいい」
「…え?」
「もう会う事もない」
「……」
拾った剣の砂を払う事さえせずに
一目散にその場から離れた霊。
走るでもないが歩くスピードは早いまま…
食べ物屋が並ぶ通りを歩いていると
霊の身なりも良いから沢山の店人から声がかかる。
…腹も減っているようで
キュルキュルと鳴る腹に手を当てると、
懐から袋を取り出し中身を除いた。袋の中はお金。
どれくらいの価値があるのかは分からないが、
ため息をついて店に入ると
頼んだのは酒だけだった。
*現世*
「…ッ、」
「…アンタの唇…なんでこんなに甘いんだ…?」
僕を棚に押し付けたまま、不思議そうに呟く霊。
少しだけ離れた唇をまた重ねようとしてきたけど
苦しくてもがくように押し返した。
「…み、見えた、お前と、僕に似た男が、」
「ぁぁ、見えたか…」
「…全く愛し合うような関係では…
無さそうだったけど」
「へぇ?初めて会った日の記憶でも見たのかな」
「初めて会った感じ…ケンカ腰だった…」
「ああ。というかいつもケンカ腰だったな」
「そうなのか?愛する人と?散々な思い出だな」
「…その日からその人が気になって…
ケンカみたいに言いたい事言って…
自分の気持ちと向かい合うようになって…
……素直になれたんだよな…」
「…へぇ…」
「ちょっと気になるか?」
「…まぁ、ほんの少し…」
あいかわらず棚と霊に挟まれ、
通せんぼされて動けないまま話し込む。
この触ってくる感じといい、
キスといい、慣れた雰囲気はなんなんだろう。
…そしてこのザワザワする胸はなんなんだ…
「しかも、これから18禁だぞ?気になるだろ?」
「は?…なんでお前の裸なんか、」
「…だれも俺のだとは言ってない。
俺かもしれないし、アンタ、に似た
殿方かも知れないし…」
「ッ」
「…照れるなよ」
「照れてない!僕じゃないし!」
「見たらもっと照れると思うけど」
「見ても平気に決まってるだろ!」
今にも唇が重なりそうに近付いたまま
クスクス笑う霊。
「…フッほら、キスして。平気なら見てみなよ」
からかうようかそぶりの霊を睨み…
唇を重ねた。
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