2:同居とは~現~
同居とは、1つの家に2人以上の人が一緒に住む事。
まぁ僕も'人'じゃなければ、アイツも'人'じゃない。
そんな僕とアイツが、なぜ、
一緒に住まなければならないんだ。
いくつかあった屋敷の空き部屋のひとつ、
絵画や骨董品が飾られていた大きめの部屋に
アイツの荷物がいつの間にか運び込まれていた。
どこまでが僕の物で、どこからがアイツの物だか
分からなくなってしまったから、アイツの荷物を
勝手にまとめて追い出す事も出来ない。
「…それ、俺が海で拾った流木」
ただ置いてあった木を持って眺めていたら、
急に背後からアイツに話しかけられた。
が、ここはアイツの部屋らしいから驚きはしない。
「…ゴミ、か」
「ゴミではない。…何か用か?
勝手に部屋に入ってこられても困るんだが」
「……お互い干渉しなければいいと言っても、
こうしてゴミを持ち込まれたら困る」
「ゴミではないと言ってるし、
こう勝手に部屋に入り込まれたら俺も大変困るが」
「…僕の家なんだけど…」
「この世界、人間の世界で売買契約したのは俺だ」
「……金持ちなんだな…」
ずっと一人だけで過ごしてきたし、
急に得体の知れないオバケと一緒に暮らすなんて
ものすごく落ち着かない。
出て行きたい気持ちもあるけど、
僕が仕事で使う特別な部屋はこの屋敷の中だ。
そもそも死神と幽霊が一緒に住むなんて
可能なのか??
…なんの得にもならないだろうし、
お互い損な事しか思い付かない。
話も合わないだろうし、
なんなら僕はアイツを消せそうな気がする…
「…僕のコレクション、絵画、壺、石…
眺めたい時は、ここに入るしかない」
「…アンタの部屋に運べばいいか?
どれだ?全部か?」
「…全部は入らないと思う…」
僕が集めたはずの絵画。
…僕の部屋に運んだ方がいいのか、
別の部屋に移した方がいいのか…
床に置かれた一つの絵画が目に付いた。
「…これ、は、僕の部屋へ運ぶ」
青紫色の空の暗さと寂しそうな花畑の白色、
その二色が混ざり合う曖昧な奥行き。
僕の気持ちを表しているような自然の風景は、
ずっと眺めていたいと思った。
そう思って僕が手に入れたはず…
「?それは……俺の…俺が描いた絵だけど」
「え?…そう、なのか…」
「こんなに絵画があるから自分のものが
分からなくなってるんだな?」
「違う!これは、観たら一瞬で引き込まれて
また眺めたいと思ったから…」
「……ありがたいが、譲れるものじゃない。
ほら、この絵はどうだ?空も緑も綺麗な絵だ」
近くにあった絵画を渡されると
後ろから肩を掴まれ、ドアへと押された。
従うつもりはなくても、力強い腕に押されて
簡単にドアの外へと追い出されてしまった。
「ッ、か、勝手に入ったのは悪かったけど、
僕のコレクションっ」
「後で運んでおく。隣の部屋でいいだろ?じゃ、」
素早く閉められたドアの向こうも、
屋敷の中も一気に静まり返る。
「…もうちょっと、見せてくれても…」
あの絵をアイツが書いたのか?
あの色使いを?それとも現実にあんな風景が?
「…ぉーい…その、風景はどこか実在するのか?」
『……』
ドア越しに話しかけてみる。
「実在するなら行ってみたいな、と思っ…」
『実在するが、…断る』
静かだったのは、
多分ドアの向こうで動いていなかったからで…
返事がドア越しだけどすぐ近くから聞こえた。
「へ?え、実在する、けど、行っちゃダメ?と」
『……』
聞こえているはずなのに、会話にならない。
「ケチだな!僕はこんなに寛大なのに。
ずっと1人で住んできた僕の家に
急にやって来たのはそっちのくせに…
仕事だってこの屋敷でないと出来ないし…
どう考えても元々居た僕の方が我慢しなきゃなのに
『我慢してやる』ってなんだよ。
そんなのこっちのセリフなんだから
もっと優しくしてくれても…」
ドアノブがゆっくりと動いて、隙間が出来た。
そしてその隙間から真っ直ぐな視線の瞳。
「……アンタ、俺に優しくされたいのか?」
「いや、そこまでは言ってないが、」
「……」
真っ直ぐな瞳で僕を見透すように
ジロジロと睨んできた後、
何も言わずにまたドアが閉まった。
「……っな、なんだょ…」
また静まる屋敷。
いつもなら当たり前の静けさで落ち着くはずなのに
アイツがいるせいで全然落ち着かない。
明日の仕事の為に早く寝ないといけないのに
酒でも飲まないとやってられない。
以前に買った白ワインかビールが
冷蔵庫に冷やしてあるはず…
いや…この前飲んだかな…
ホントこの記憶力は不便極まりない…
いつ買ったのかは覚えていないけど、
ワインクーラーの中にあった赤ワイン、を…
どれくらい飲んだかな。
ダイニングテーブルに突っ伏してこのまま
眠りたくなってきた頃、アイツがやって来た。
「……あの絵、まだ未完成なんだ」
「…へぇ?」
僕の飲みかけのボトルを手に取り、
中身の量を見て不思議そうな顔をしたと思ったら
そのまま口を付けて飲み始めた。
「っ、ん。まぁまぁ渋いな。
絵…未完成のまま何十年も経っているんだけどな」
「勝手に飲むなよ。
……別に未完成のままでもいいじゃないか。
見たい。あ、ここか、リビングに飾るとか?」
「…考えとく」
いくつもダイニングチェアが並んでいるのに
僕の隣にドカッとふんぞり返るように座ってきた。
そして、まだ入っていたはずのワインボトルを
逆さまにして飲み干されてしまった。
「え、なっ!勝手に飲むなって!」
「…アンタ飲み過ぎだろ。そんなになるまで…
寝るなら部屋で寝ろ。襲われるぞ」
「はっ!誰が死神を襲うかよっ…」
「ほら、立って。部屋か?あ、歯磨きするか?」
僕が持っていたグラスまで取られ、飲み干された。
そして腕の付け根を掴まれて無理矢理立たされる。
「…歯磨き、する」
「フッ…するのか?出来るのか?そんなんで…」
偉そうにして感じ悪かった霊の顔が、一瞬綻んだ。
なんだ、なんだよ、僕の事を馬鹿にして…
洗面所まで連れて来ると、
白と黒の2本並んだ歯ブラシの白色…僕の方を取り
歯磨き粉を付けると
それを僕の口へ突っ込んできた。
「…ッ、」
「じゃあな、ちゃんと部屋で寝ろよ」
アイツは僕を洗面所に残して去っていった。
なんだか軽く酔ってしまった僕も大概だが、
僕をかなり雑に扱うアイツ…
僕の事を扱い慣れてるようにも感じるのが
余計にとっても腹が立つ…
「…この鏡じゃなくて…
あの鏡の前に…立たせてみようかな…」
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