第9階 4つの光

 (「それとエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》に成ったハツミに渡しておくモノがある」)


 地面から浮遊する白亜剣。

自身の切っ先で空間に切れ目を入れると何かが緩やかに落ちてくる。

星の様に綺麗な、それでいて何か物凄く圧縮された力の塊の様なモノが私の手の平に風に舞う蒲公英の様に吸い込まれていく。


 (「これは?」)


 まるで人間達の世界で貴重な宝石の様。


 (「ダイヤモンドとルビーにサファイア、それにエメラルドと呼んでいる。

 単純に似ていたし、それにとても綺麗だったから」)


 線香花火の様に燦然と輝くそれには重さは感じれない。

 でもとても深く根深く空間に根付いていた。


 (「これはまるで命」)


 メイユールの魂に形は違えど材質と輝きがとても似ていた。


 (「そうだね、ハツミ。かつて名を馳せたエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》達の想いが詰まったモノだ。

 扱い方にだけは気を使って欲しい、決して綺麗なだけじゃない」)


 斗羅の言う通り、それには何か恐ろしさやおぞましさも光として感じられた。


 苦しみ嘆き憂い阿鼻叫喚痛み恐怖に日常、そしてエンシェントルーラエルフ族の繁栄と幸福を願った祈り。


 (「当時、最強以外に興味が無かった俺には

分からなかった、ただただ自分と関係の無い種族が人の業によって絶滅に近い状態になったと。

 でも俺の仲間の神に近しき龍がこう言った

語り継ぐべく歴史が非業の歴史がこの世界に刻まれた。

 この所業は人が人に行う可能性も十二分にあり得ると。

 その時にその仲間の龍の願いにそっていつか生きているエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》に託し、知って貰おうとそして

...もうこれ以上この世にいないエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》達が神によって心を無くす様にないこと、そして手向けさせて欲しいと。

 俺はその場から離れたかったから後は任せた。

 後日その4つの宝石の名を冠するそれを受け取った後に俺がエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》の地に出向いたら、本当にその世界はおろか歴史ごとくり抜いて宝石にしたみたいだった。

 まるで今のハツミの涙の様に」)


 私は押し黙っていた。

自分の頰を涙が一筋伝う感触が明確な重さを持って地に吸い込まれていった。

 いかに私が何の気なしに同次元転生したかを思い知らされた。


 (「俺と同じ様に、ただし全てどうするのか

決めるのはハツミ自身だ俺とエルエルはハツミの人生には関係無い」)


 「ふざけないでよ。私が決めていい?あー!そうね!そうさせて頂くわ!!私がこの世界を脅かす史上最凶の魔王になっても文句言わせないからね!!!」


 私は念話を忘れていた。

 悲しみとエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》の辿って来た歴史の重みの辛さを感じて。


 (「それも含めて許すと伝えた」)


 斗羅はきっと笑っていた。


 「大魔王なんて面白そうですね〜」


 マスカリア?


 「三頂の次は魔王の配下それも面白いわね」


 マテハも。


「勇者の攻略どうするよ?」


 マユナも。


 「私はしもべのドラゴンに乗って

みたいかな...?なんて」


 イムまで。


 4人の言葉に私は救われた。

何を一人で抱え込んでいたのだろう私は。


 「ねぇみんなにお願いがあるの」


 私はマスカリアにエメラルドを、マテハにサファイア、マユナにルビー、イムにダイヤモンドをそれぞれエルエル《エンシェント・ルーラ・エルフ》の事を添えて渡した。


 一緒に背負って。

1人じゃ苦しいし辛いと。


 その後、私はマテハ達に手を引かれこの城の玉座に招かれた。


 その玉座に鎮座していたカゲード・ゲイスダリゲードは人ならざるモノだった。


 倶全・ゲイスダリゲードは人に近しきモノだった。


 倶全君は私と同様別世界の声が聞こえる、目覚めを既に完了した人でもあった。


 「お初にお目にかかります。ゲイスダリゲードの名を持つ者達よ」


 私の持つ白亜剣と同じ名を冠する古代魔皇言語。


 私は深々と頭を下げた。

薄い水色に中心に深々とした漆黒の黒い線が入るローブで全身を覆い隠し玉座に座するカゲード・ゲイスダリゲードに。


 カゲードの名も漆黒剣と同じ名を冠する古代魔皇言語。

 あ、そんな剣あるんだ。


 カゲードは声ならぬ声で頭に言葉を響かせた。

 (「ワタシは創られた存在だ手足顔を持つ種族とは別種としこの地に座し魔皇ミラース・ラーバ・ラーサ様の命にのみ従う」)


「......」


 白亜剣が異空間に亀裂を入れながら現れる。


 「え?」

 イムが呆けている。


 カゲードの眼前の床に白亜剣が突き刺さっていた


 斗羅、分かったわ。


 私はその剣を私の右手に移動させ握りしめた。


 (「魔皇様よ...お姿をお見せ下さい。貴方様と過ごした日々に対する感謝の念を伝えられぬ悲しみをどうか拭わせて下さい...」)


 カゲードは泣いていた涙は流れずとも命に従いこの地に座してきた身として。


 それはこの場にいた全員が理解していた、溢れ落ちるはずも無い涙無き涙を。


 (「カゲード・ゲイスダリゲードよ。僕の望む最強の1人よ...

 アオナ・エカルラートに付き従い僕と想って命に従って欲しい。

僕こそカゲードのすべてに感謝を送るありがとう」)


 斗羅の声はカゲードのみが認識出来たていた。


 (「答えは出たぞ...アオナ・エカルラートよ

主君の命に従いこれより主とする」)


 「魔皇様......許......出..................、父......?」


 「魔皇より許しが出たみたいだね、父さん?と言っているみたい、きっとそうだよ!倶全!!」


 イムがとっても嬉しそう。


 倶全君とカゲードさんは基本念話なので

なんと返答したかは特に探りはしない。


 「.........行......旅...出...」


 恐らく念話の答えだろう。


 「ついて行くよ旅に出る」

 と言っていてイムが嬉しそうだとマテハと話していた。


 「そしたらカゲードさんはこの地の守護をお願い致します」


 (「主に従います」)


 おそらくカゲードさんはよっぽどの有事が無い限りこの場にいて頂く方が全てにおいて好都合だと私はふんだ。

 このカゲードさんは私が出会ってきた中で父を除いて最強の力を持っていると感じているからでもある。

 おいそれと動かす訳にもいかないし念話が使えるというのも大きい。

 よくもまぁこれだけの逸材がいたものね。


 (「ハツミリの前身いわばプロトタイプ。

 俺が創ったモノ達の全ての死がこの場所に集まり更に凝縮し圧縮する。

 それがカゲードとゲイスダリゲードの強さの正体の一部だ。

 それに"神造人間"としてもプロトタイプも兼ねていた基本的なコミュニケーション手段を念話とはしているけど」)


 (「力に関する素体という事ね」)


 斗羅がその通りだよと笑顔で頷いた様な気がした。


 私達は次の方針としてドゲートさんの書簡に記してあった闇一族の城を目指した。

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