第8階 魔皇

 ドゲート城の一室のベッドに、ラウドがぐったりとうな垂れている。


 そして涙が溢れ出ていた。


(「何が...あ......っ............た......?」)


 ラウドの武装は解かれマテハによってスライム並みに弱体化させられていた。

 それでもラウドの崇拝する神ディンなら弱体化が解ける程度には抑えてある。


 ラウドに高待遇な処置を施したのは自らの主である神ディンを第一に考え身も心も砕く

その忠実な心と他のユグドラシル騎士団に慕われていた2点から。


 ドゲートさんは目を閉じて彼のそばで座っていた。

今後の方針を彼と話した結果、ラウドには使者としての役割を受諾してもらう必要性があると話が纏まっていた。


 神ディンが2度とこの地を踏まない為に、あわよくば"ディン"ほどの神を持ってしてもこの"異世界ミリカンテア"に全く持って太刀打ち出来なかった事が神々の間で広まることを願って。


 「とても話が出来る様な状態では無いか...」


 ドゲートさんは心配していた。


 「いや......見くびるな......半日だけ1人にさせてくれ。仲間の冥福を祈りたい...」


 ドゲートさんには私を始めとする5人のお墨付きでラウドの抵抗力もしくは他からの干渉は一切不可能と伝えていた。

 無論自殺も不可能な状態になる魔法も施されてある。


 「あと2時間で飯が出来る。部下に評判が良い。考えるのが辛くなったら来るがいい、戸を開けて目の前だ」


 ドゲートさんはラウドに気を配っていた。

彼には無事に帰還して頂く必要性がある。


 「一つだけ聞かせてくれ...」


 ラウドは悲しみを振り払うかの様に声を振り絞った。


「いいぞ」


 これでこの男の心根が分かる。

ドゲートさんも同じ意見だと思う。


 「死んだあいつらは...見事にディン様のお役に立つ働きが出来たか...?......」


 ドゲートは立ち上がって無言で戸を開けた。


 「君が思う通り見事に戦った!このミリカンテアの勇者に敗れはしたものの立派にな。

神ディンの元に帰還したらそう報告するが良い」


 ドゲートは戸を閉めた。


「あぁ、救われる...」


 ラウドはそう呟いて目を閉じた

しばし仲間達と過ごした日々を想っていたのだろうと思う。


...


......


.........


 「ねぇ?次に向かう場所にいる倶全さんって?...」

 

 私はマテハから聞いた、ドゲートさんから聞かなかった名前について聞いていた。


 「倶全クゼンさんは金髪碧眼の同じぐらいの年齢の男性です。実は共に旅したのですよ」


 マスカリアが元気良く答えてくれた。


 「確か彼は墓守よね」


 イムも囁く様な繊細な声で会話に参入して来る


 「私は知らないよ?その情報...ふ〜ん」


 マユナは不敵な笑みを浮かべていた。


 「違う!興味があるとかじゃない!!むぅううううう!」


 イムは唸って怒っている

まるで逆立っている猫の様に。


 「分かったって!!あははは」


 とマユナは笑っている。


 「むぅ」


 イムは気恥ずかしそうにしていた。


「着いたよ」


 イムに今度聞かせてねと一言マテハは耳打ちしていた。


 「うん」


 とイムは小さく頷き小さく呟いた。


 「ここがその墓守のいる場所」


 白く淡いぼんやりとした城がそびえていた

ことに私は驚いていた。

もっとおどろおどろした墓地を想像していたから。

 けれども父に借りた世界大全という書物の人間世界の水族館に酷似していて水が所々に流れている様だった。

でもそれは"水"ではなかった。世界の生命の流れという表現が正しいのかもしれない。


 「この場所には三頂に匹敵する倶全君の父親。カゲード・ゲイスダリゲードさんがその最深部にいる」


 マテハが口にした名。


 「カゲード、ゲイスダリゲードって、え!?その名の由来は!?」


 その名前が古代魔皇言語だと分かる。


 「由来...は何だっけマテ姉?」


 首を傾げていてマユナは知らないみたい。


 「この城の石碑に"私が生み出し4つの力の還る場所を定める。龍と闇はカゲードへ。星と虹はゲイスダリゲードへ。誰にも行使出来ぬ様に人外の羅列とする。

 力の一部を使えるモノの名をカゲード・ゲイスダリゲードと定める。その子を倶全・ゲイスダリゲードと定めると記してあったよ」


 知らなかったものはこの世界にすべて置いてあるの?


 「ハツミ?他にもあるから城の中を見て回るといいよ私達で倶全君に了解は貰って置くから」


 マテハの提案に私は了承を頷きで応えて城の中へ駆け出した。

 マテハの言葉に宿った、石碑の想いを私は頼りに言霊を探した。


 「あった!」


マテハが教えてくれた石碑が!

見上げる程に大きい。


「倶全・ゲイスダリゲードと定めると」


 まで読み終えると続きが浮かび上がる。



 「全てを打ち破る力としてゲイスダリゲード総てを打ち破る力としてカゲード」


 そして究極魔法として自らを遥かに超える存在としてハツミリを創った。

 しかし一度のみの成功となった。

 第一魔法 第1のハツミリは超大成功。

この魔界の天皇たる魔皇ミラース・ラーバ・ラーサを踏み越えし超越者と成った。

第二魔法 第2のハツミリは超越者と成った。

第三魔法 第3のハツミリは第二のハツミリと同程度の強さを持つものの優し過ぎた。

 もう時が迫っている僕は帰らねばならない。

3つのハツミリを同次元転生させた。


.........


ここまでが石碑の内容。


 転生方法は主に4つあって、同次元転生よりも上位の次元外転生。

 同次元転生よりも下位の世界外転生と同世界転生、更に下位に蘇生魔法がある。


 そもそも転生法自体が人がいて人にとって奇跡の存在である神、神にとって神である超越者。

超越者にとって神の次元以上に存在しないと行使が出来ない。


 私ハツミリア・ルイデがアオナ・エカルラートへの転生法がこの同次元転生にあたる。

"ハツミリア"としての私の力を全く失わせず

新しい世界の新しい存在と統合する手法。

ただし一つだけ効力に制限があり、使用者よりも上位の者が現れたら効力は無効になる。

だからこの石碑の場合だと

私がハツミリアとして生き始めた時点でこの魔界の天皇様の〜外とつく転生法は利用出来ない。


 (「そういう事でしょう?変態さん」)


 白い光が満ちて白亜剣が現れる。


 (「俺は斗羅だけどね!また会えて嬉しいよ!」)


 白亜剣は自由自在に回転している。


 (「私は」)


 何とも言えない現実に言葉が詰まった。


 (「ちゃんと今のお父さんとお母さんから生まれた。前世は前世、今世が人生」)

 

 斗羅の言葉が私に響く。


 父と母の子供なのかって事を言いたかった。

あの2人に育てられた日々はまやかしだったのかって。


 (「でもまぁ、そういう事にしておくわ。そのつもり」)


 私は自然と笑みがこぼれていた。

ちゃんと父と母の子なんだって。

あの日差しの様な父と澄み切った空の様な母の子供なんだって。

 何より誇りに思う。それだけが。


 (「で?貴方が魔皇なの?」)


 (「俺は斗羅だ」)


 (「そう」)


 白亜剣に宿る斗羅は不意に地面に突き刺さり語り始めた。


 (「かつて魔皇ミラース・ラーバ・ラーサとして旅した。

 その最終過程で俺は自身の力がこの世界から失せていく感覚を味わった。

 その時忘れていた事をふと思い出したんだ。

 別次元の無数の人間の1人だって事を。

この世界に来た時は当たり前の様に知っていたのにね。


 最強だけを考え最強に囚われていた、俺が創り上げた最期の最強が君自身ではなく。

"ハツミリア"という名前に宿っている。

それを証明する全ても置いていくつもりだ。


 使うか使わないかはハツミ次第だ。

全天もアルテンも惜しみなく力を貸してくれるだろう。


 もうじき俺のこの世界での旅は終わる。

俺は人間界に還る。

 でも1人だけ、もう1度会っておきたい人がいる。

 ハツミにももう少し伝えるべき事があるから短い時間だけどよろしくね」)


(「何で泣いているんだい...?俺は許すよ」)


 ハツミが俺の遺す力を使って神々を滅ぼし人間の世界を抹殺したって」)


 ...斗羅は静かに言葉を紡いだ......


 何故だか分からずすすり泣く私に喋る白亜剣の斗羅の言葉は今の私の心に翼をくれた様だった。

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