Chapter1(ver2.2)・米沢英紀は英語が嫌いだ
高一 九月 日曜日 始業式翌日の午前中
「そうか、英紀君。君のお父さんから聞いていた通り君は英語が嫌いなんだね」
「はい、嫌いです。 あ、でも外国人は嫌いではないですよ。むしろ魔法使い映画のエミリー・ワシントンなんかは小学生の頃『結婚したい!』と思うくらい好きでしたよ。映画じゃ日本語を話してましたから」
午前中とはいえ猛烈な残暑の日差しを、ブラインドとエアコンで緩和した四畳半ほどの書斎の中で、俺は余裕を感じさせる態度で向き合って座る言語学教授にそう答えた。
「そうか、じゃあ外国人嫌いではない英紀君がどうして英語を嫌いになったんだい? 今日は初めてのレッスンだしまずは君のことを知りたい。教えてくれるかい?」
なおも余裕を感じさせる教授はそう言って掘り下げる。もともとこのレッスンに乗り気ではなかった俺は、時間稼ぎのために英語黒歴史を脳内の引き出しから取り出して披露する。
「まずは中二の時かな、英語の授業で将来の夢を聞かれて『サラリーマン!』って答えたんですよ」
「ああ、和製英語あるあるだね。それで? 笑われたのかな?」
「はい、まず最初はクスクス笑う声が聞こえたり、先生が残念そうな顔をしているなとは思ったんですよ。みんなの様子から『何か違ったのかな?』とは思ったんですけど、その時の俺は発音が英語っぽくなかったからだと勘違いしたんです。だからめっちゃ舌を巻いて英語っぽく言ってやったんですよ。『サるラりぃーメーン!』って!」
「ふんふん、それで? どうなったんだい?」
「静まり返った教室で女子が可愛い声で『ふふっ、メーンって複数だし』って言ったらクラスメイトみんなに大笑いされたんです! 実はその女子は、この前の週に俺に告白してきた子だったんですけど、後になってから告白にYesで答えたらフラれてしまいました。『ごめん、やっぱやめとくね』って」
「そうだったのか、英紀君と一緒にからかわれるかもしれないと思ったからかな」
「それが違うらしいんですよ。後で噂で聞いたら女子カーストトップの奴に『あなたリーマンに告ったんでしょ? リーマンに告るってなんか響きがウケるねwww』って言われたかららしいんです。せっかく初めてされた告白だったのに」
「嬉しかったなら付き合えばよかったじゃないか」
「ああ、そこは触れないで下さい。恥ずかしいんで……」
俺は恥ずかしさを紛らわすためにポルトガルのスターサッカー選手を真似た短髪頭を掻きながら答えた。そして話題を戻すために尚も話し続ける。
「とにかくこれだけじゃないんです。
「ああ、娘から聞いているよ。状況が知りたいから英紀君からも教えてくれるかい?」
愛娘が関わる話題だからか、大人の余裕を感じさせる教授の表情に真剣味が増したように感じられた。
「はい、お嬢さんも関わるお話ですから、これについては真面目に事実だけお話ししますね。昨日の始業式後のHRの時のことなんですが――――」
俺はこれまでの道化のような語り口を改めて、つい昨日アップデートされたばかりの最新版黒歴史を脳内フォルダから取り出して話し出した。
Ver2.0 英紀の完全独白だった一話を対談式に変更
Ver2.1 ウェイイレとリーマンショックエピソードを削除
Ver2.2 パロディ削除
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