第246話 三浦龍之介
「じゃあ、僕とアキラとユウキは、一旦地球側へ行ってくるから、あなた達はここで自由に好きに過ごしてて。何か分からない事があったらアリエルに聞けば分かるから」
ユウキとアキラとスーザンは地球で準備があるので少々退席する。残ったメンバーは、スーザンとアリエルの別荘で休む事になった。
「お腹が空いた方はあちらのダイニングの方にご用意しますわ。アルコールもありますよ」
「やった! アリエル大好き!」
冷凍食品やインスタント食品等の備蓄は、ちょっとした日本のコンビニ並みに揃えてあるらしい。食い意地の張ったサマンサは大喜びだ。
「じゃ、私達は行ってくるから」
「ちょっと待ってくれ!
「アキラ様が行くのなら、秘書の私もご一緒します。三浦を連れて来るつもりならお役に立てるかと」
ロミリオンはククリナイフをくれたユウキの事を勝手に
まあ、付いて来たいと言うのを拒む理由は無いのだけど、アキラがユウキの負担を考えてロミリオンには残って皆の安全を守る様に命令を下した。というのも、そうすると残るのはエルフの女二人と捕虜の男一人になってしまうので、ボディーガードとしてロミリオンには残ってもらった方が賢明かも知れないと思ったからなのだ。
一応元地球人という事で警戒が甘くなってしまっていたが、一応こいつは敵側の人間なのだ。用心に越したことは無いだろう。それから、武術の心得が多少はあるマサキにも残ってもらった方が良いだろう。四対一なら流石に妙な気も起こしはしないだろう。
「そういう事であれば、ご命令に従います」
ルーカスはやれやれというポーズをした。未だ皆の信用を勝ち取るには時間がかかりそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「三浦―、ちょっとこっち来いやー!」」
「何だよイキナリ!! びっくりしたなーもう!」
神管のオフィスでデスクワークをしていた三浦の後ろから、アキラとユウキが大声で声を掛けたものだから、仕事に集中していた三浦は驚きのあまり三波伸介のギャグみたいな台詞を吐きながら振り返った。
「今すぐ来て! あっちで戦争がはじまりそうなの!」
「待て、まあて! 何だか穏やかじゃないな。戦争? 異世界のだろ? ほっとけほっとけ、俺は今仕事中なんだ。この書類を今日中に仕上げなければ帰れないんだよ!」
「そんなの後でいいじゃん! こっちは人の命がかかってるんだよ!?」
「お前らの異世界遊びには付き合ってられん。俺には俺の生活が有るんだ! 大体上司の許可が……」
三浦が麻野の方を見ると、一瞬目が合ったのだが、直ぐに視線を逸らされた。
「マジかよ。うそでしょ!?」
三浦は拉致同然に無理やり引っ張って行かれてしまった。麻野は心の中で『すまん!』と呟いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アメリカの方へ一旦帰っていたデクスターと合流し、三浦を含めた四人は異世界の別荘へ戻って来た。
「おかえりなさい、随分と早かったですね」
「皆食事中だったんだね」
皆はダイニングに集まり食事中だった様だ。ユウキ達と一緒に入って来た背の高い女性を一瞥し、再び食事を再開する。この中でマサキとアリエルとサマンサはその女性を見た事があるのであまり反応しなかったのだが、ルーカスとロミリオンは初めて見た女性に目が釘付けとなっていた。それでもルーカスは普通に胸の大きさに見惚れていただけだったのだが、ロミリオンの様子が少しおかしい。というのも、女性化した三浦は高身長という事もあって脚も長くスタイル抜群なのだ。筋肉質だが細身で、しかも胸が大きい。
ロミリオンはガタンと今座っていた椅子を倒して立ち上がると、三浦の前にツカツカと歩み寄った。
「惚れた。俺の子を産んでくれ!」
「は、はあっ!?」
ロミリオンは告白も交際も結婚もすっ飛ばしていきなり子を産んでくれと真顔で迫ったものだから、三浦はビックリして変な声が出てしまった。
「は? こいつ、何を言っているんだ!?」
「一晩限りでも良いぞ、必ず命中させるから!」
「ちょっと、頭おかしい! 何とかしてくれっ!」
「ダークエルフの文化は良く分からないが、これが普通なのか?」
「それともコイツがおかしいだけなのかは良く分からないな」
皆が顔を見合わせてしまった。この中にダークエルフの文化について詳しい者は一人も居ないのだから判断のしようも無い。アキラとユウキとスーザンだけが何となくそんな感じの村だったとは認識していたが、それでも
「まあ待てロミリオン。あんたらの文化ではそれが普通なのかも知れないが、他所の人間にそういう事を言うのは非常に失礼だし、嫌われるぞ。最初はもっと優しくしろ」
「しなくていいから」
「えっ!? そうなのか? 俺らの村では皆こうやってお願いして子供を作るんだが…… 失礼なのか…… どうすればいい?」
ユウキの発言に三浦が即座に反発している。ロミリオンはユウキの命令に戸惑っている感じだ。
聞くと、ダークエルフには結婚という概念が無いのだそうだ。そういえば、以前にも聞いた様な気もする。あの灰エルフの村でもそんな感じだった気がするが、あまり真剣には聞いていなかった様だ。
ダークエルフには婚姻という概念は無く、気に入った異性が目に入り、お願いして了承を得られれば即座に事に及ぶ。相手の都合で断られてもしつこくはしない。それは男性からでも女性からでも気に入った異性が目に入れば即座にアタックする。次の瞬間にその相手が別の異性とくっついたとしても怒りはしない。そういう日常を特段に変だとは思っていないのだ。
その結果子供が生まれたら、村人全員の宝として皆で育てるという感じだった気がする。実に野生動物っぽい。ダチョウとかワニとかもそんな様な生態だった気がする。気がするばかりで申し訳ないが、そうとしか言えない。愛はあるけれど所有欲とか独占欲とかは無いのだ。だから嫉妬もしない。その相手が気に入ったのなら、またお願いすれば良いだけなのだから。
「どうすればいいって…… どうすればいいんだ? 受けた方が良いのか?」
「いやいや、何その気になってるんだよ。嫌なら断れよ」
「そうか、じゃあロミリオンだっけ? またな」
「そうか!」
ロミリオンは元の席に戻って食事の続きを始めた。
「何? 三浦、その気があるの?」
「いや、断ったつもりなんだが」
「『また』が断りの文句だと思っているのは日本人だけだぞ」
「ああそういえばそうだっけ」
三浦は頭を掻きむしった。
ちなみに、『いいです』『結構です』というどっちとも取れる言葉が断りの文言として機能しているのも日本だけだ。元は曖昧な言葉で相手にそれとなく気付かせるという、強い言葉で相手を傷つけたくない、自ら気付いて欲しいという、性善説日本独自の優しさというか、ローカルルールというか、文化なのだ。そこを極めて最早嫌味の域にまで達している地域が関西地方に在ると聞く。キャッチセールスなんかでこの曖昧な返事をして『OKされた』と逆手に取られるケースもある様なので初対面の人間に使うのはNGだ。外国は基本性悪説だと思って置いた方が無難だ。
「じゃあ、食事が済んだら各自部屋に戻って自由時間を楽しみたまえ。いくら部屋が防音だからって明日の朝は早いから寝坊するなよ」
ユウキが意味深な言葉で場を〆た。というのも、ユウキとアキラの他にスーザン&アリエル夫婦やマサキ&サマンサ夫婦も居るのだから。防音だからと言って完全に音が漏れないとは言い切れないので、独身組にはお気の毒としか言えないが。
そういえば、女性がこちらの世界に来ると男性の体で暴走するケースが多いのだが、マサキ(野木)さんは割と静かだったなと思った。
「さ、さあ、お腹もいっぱいだしおやすみなさい……」
そう言って宛がわれた部屋へ戻ろうとするサマンサの肩を後ろからガシッと掴む手があった。サマンサは恐る恐る振り向いた。
「そうだね、地球では結構激しくしてくれたのだから、今度は僕がお返ししないとね」
「そ、そうね、優しくしてね……」
マサキは、サマンサを引きずる様に部屋の中へ入って行った。
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