第229話 蜜柑のみ
「でも、悲鳴上げて無かった?」
「悲鳴っぽく聞こえただけなんじゃない?」
「
古くてボロボロだとは言え、アメノハバキリは祭具ではなく本物の剣なのだ。それを幼児が振り回していたら危ない。それにしても、金属製のそれなりの重さのある剣を、軽々と振り回す幼児もどうかと思う。
優輝は、それを取り上げたいのだが、
翌日の地方紙には、『終末を告げる音? アポカリプティックサウンド』という見出しで三面に記事が掲載されていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょっ、おまっ、持って来ちゃったのかよ!」
「しょうがないじゃない。
アメノハバキリの
最初は普通に神宮へ調査のお願いをして見せてもらう予定だったのだ。しかし、アメノハバキリの
「うちの子達が調伏してしまったので、うちの子が持っている間は大人しいんですけどね、私や優輝が近くに居ると暴れ出すのよね」
「またあの禁足地に埋め戻せば大人しくなりますかね」
「お前らが近くに居ると駄目なんだろう? どうするんだよ」
「ちょっと考えてみます」
とは言え良い考えがあるわけでもない。幼児達だけで元の場所に埋めて来てと言うのもどうかと思う。
「あ、ちょっと待ってくれ」
何とも煮え切らない表情で帰ろうとする優輝達を麻野が呼び止めた。
「どうせ持って来てしまったんだ、ラボの連中にデータ取りだけさせてやってもらえないか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
優輝が
まず先に、
アーティファクトは世界各地で出土しては居るが、それぞれの国が厳重に管理していて、真面に研究出来る機会なんて殆ど無い。生のアーティファクト、それも世界最大級の遺物に触れられるなんて、こんなチャンスは二度と無いに違いない。多少の危険なんて気にならない程に魅力的なのだ。研究者冥利に尽きるのだろう。
機械の撮影台の上へアメノハバキリの
伝説では、ヤマタノオロチを退治した時に尻尾のあたりに入っていた
ガードと呼ばれる部分、刀でいう鍔に相当する位置にある物は、朽ちて失せてしまったのか何も無い。ただ真っすぐな剣本体、錆びた平たい鉄の棒の様な刀身のみとなってしまっている。
今、ガードと言ったが、日本の古代の剣や刀の様な形では無く、真っ直ぐで両刃の西洋の中世位の時代の剣に形が似ているのだった。
優輝は
ビックリして振り返り、X線室を覗く窓の方へ踏み出したら警報音が止まった。
あれ? と思い、その場から一歩下がると警報が鳴る。一歩前へ出ると止まる。
「ははあん、アメノハバキリを大人しくさせられる
「子供達が居ない場合、私達が近付けるのは140mね」
「そうなの?」
「禁足地から大鳥居までの距離が、140m位なのよ」
「成る程ねー。昔の人はそれが分かっててその位置に大鳥居を建てたって事か」
X線撮影では、案の定デクスターのピアス同様に真っ白に映って何も分からなかったらしい。
その後、超音波を当ててみたり、
優輝と
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二日間に渡る検査の後、結果が出るまでの間に優輝達はアメノハバキリの
神宮の宮司には勝手に持ち出した事を謝罪し、清め封印の儀式を執り行われ、元の場所へと再び埋め戻された。儀式が終わった後に、宮司は振り返り、優輝と
野木は、懐から名刺を一枚取り出し、宮司へ差し出した。
「宮内庁外局神祇保護管理室の野木と申します」
「く、宮内庁!?」
宮司は急に思いもよらなかった名前を出され驚いた。確かに神道のてっぺんは天皇陛下だ。そして宮内庁といえば、その皇室関係の国家事務、国事行為全般を所管する内閣府の機関なのだ。
しかし、神祇保護管理室? 外局? そんなものは初めて聞く。
「その様な部署は聞いた事がありませんが?」
「ええ、
「
勿論、野木にはそんな意図は無い。事実を言っただけなのだから。
優輝達の事は、スパイやテロから保護する為にあまり公にはしない方針で、広報もしていないし、マスコミなどに公表もしていなかったのだから。
とはいえ、内閣府及び政府機関周辺の関係者は大体知っている訳で、当然神宮や寺社にも知れ渡っているはずだと野木は思い込んでいたのだった。
野木は、ふと思い当たる事があった。そういえば、神管設立時に宮内庁のある男と麻野がちょっと一悶着あったらしいと小耳に挟んでいた。
「ああ、嫌がらせされたのね……」
それは嫌がらせと言うには些細な、伝えるべき事を伝えないという様な、『忙しくてうっかりしていました』と言われてしまえば其れ迄、程度の事だった。
ちょっとした相手のプライドを傷付けたとか、嫉妬心を煽ってしまった、という様な些細な事で、こんなつまらない目にあってしまう。人間関係とは、本当に面倒臭い。
「ヤレヤレだわ」
まあ、逆もまた
挨拶は大事ですよ。実践してみればその効果の程に驚く事請け合いです。
野木は、麻野もいい歳なんだから、全方位に喧嘩売る様な真似はやめてよね、と本気で思った。
優輝達も優輝達で、普通に人間目線で叱られても全く気にはしていない様子どころか、自分達が神だという自覚は全く無い様だった。
野木は、この時デクスターの言っていた秘書兼アドバイザーの話を真剣に考え始めたのだった。
後日この宮司様は神管の方から遺憾の意を表されてしまった様だ。
「麻野さん、おまいう」
「あの人はアレで良いんじゃないかしら」
「それもそうだな」
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