第215話 携帯コンテナ
「ロッカーと自宅の奴は、後でこっ酷く叱って置くとして、こいつはどうしてやろうか」
「そもそも何でスマホだけが船に乗っているのかしら?」
「スパイに渡したに決まってるだろ」
「こっちから遠隔で初期化出来ないの?」
「アプリは消去出来ても、中に組み込まれている永久電池や魔法生成素子は取られるぞ?」
「永久電池は私達以外には作れないからいいとして、魔法素子はラボの
「危機感は無いのか?」
「別に? コピー出来る物ならやってみれば良いわ。私達の理念は、この地球の科学レベルの底上げなんだから。ただし、ロイヤリティはキッチリ払ってもらうけどね」
「しかし、それじゃ他の研究員とそれを派遣してくれている国にしめしが付かないだろう」
「もちろん、彼個人の仕業なのか、もっと上からの指示なのかは調べて頂戴。関係者はラボへは出禁にするから。物理的にね」
製品化のおりには、研究参加各国のロイヤリティ収入に関わる訳で、その莫大な利権を侵害する国はただじゃ置かないぞという姿勢なのだから、さぞかし一所懸命に調べてくれる事だろう。
特にバリアの技術は、これまで各国が独自に研究していて全く進捗が無かったところに、
これは武器転用も可能な超重要技術であるため、その流出には研究参加国内でもかなりピリピリしていた。
この件の捜査は日米英の諜報機関が担当するそうで、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ
「何を作るの?」
「幾つかアイデアが有るよ。まず、携帯コンテナ、空飛ぶ自動車、パーソナルバリア、それと例のスマホの製品化……」
「浮上術と絶対障壁を使った物は、ライセンス関係が面倒なのよ」
「えー! 俺達の技術なのに使えないのー? だとすると、携帯コンテナだけか……」
「それはどういう物なの? ストレージは未だ原理が謎なのに」
「容量制限も時間経過も有るから、それよりは使い勝手が多少悪いんだけど、それでも便利だと思うよ」
優輝はコピー用紙に手書きで描いた図を見せて、
「……成る程、拡張空間を使った携帯コンテナという訳ね……」
「そう、例えばA5サイズのタブレット端末に拡張空間を貼り付ける。その中に空気圧スプリングと油圧ダンパーで、跳ね上げ式のコンテナを格納するんだ」
「成程、物が入った箱が中から飛び出す仕組みなのね」
「事故が起こらない様に人間は中に入れない様にする。購入者にだけ入出権限を与えるのも面倒だしね。どこか形にしてくれる
「分かったわ、
「ちょっと待ったー!」
優輝と
「うわっ、びっくりした! いつから居たのよ!」
「私は何度も呼んだわよ! 話に夢中で全然気が付かないんだもの。それにしても、美味しそうな話をしているじゃない。私にも咬ませなさいよ」
「えー、異世界堂本舗の商売なのに―」
「あらぁ? そんな事言って良いの? 拡張空間の契約では随分と協力してやったつもりなんですけどねー」
「わ、分かったわよ。それ言われると弱いわ」
「それにね、浮上術と絶対障壁なら元々私の魔法だから、融通利かせられるわよー」
デクスターはニヤニヤ笑っている。確かに拡張空間の販売に関して、外国へは製品版のみの販売とする契約を取り交わすのにデクスターに小芝居をしてもらった事があった。それに、デクスターが共同開発者なら、色々と権利関係の手続きも楽そうだ。なにしろ、そういうお国の人なのだから。
「でも、咬ませると言ってもどの辺りを?」
「さっき、製品化する会社を探していたでしょう? うちにやらせてくれない?」
「マギアテクニカが作るの?」
「いえ、物作りならうちのウィッチクラフト社が得意よ」
「ああ、あなた達の別荘作った所」
「となると、空飛ぶ車やパーソナルバリアも現実味を帯びて来るな」
優輝の構想では、最終的には飛行術に携帯コンテナ、パーソナルバリアも全部組み込んだ、全部入りのスマートウォッチを作りたいらしい。それが一つあれば、自動車など乗らなくても自身が身一つで自在に飛行して移動でき、大量の荷物も運ぶ事ができ、万が一衝突や落下等の危険からも身を守る事ができる、革新的な超便利ツールになるだろう。先ずその為には不安定で癖のある浮上術を、自動で安定飛行させ、人間が操作しなければならないかなりの部分を自動化する必要が有る。今のままでは個々人の技量による上手下手の差が大きすぎるのだ。自動車の様に多くの人が少しの訓練で自在に操れる位にまでリファインする必要が有るだろう。
「バリアもね、球形だと転がって行っちゃうから、筒型とか箱型とか、もうちょっとスペース取らない形に出来ないかな? 理想的には体形に沿って包み込む様な形にできると良いんだけどな」
「そのあたりは、今ラボ内のスーパーコンピューターで魔法式の解析中よ。図形のどの部分がどういう意味を持っているのか、どう範囲や距離を定義しているのか、ももう少し掛かりそうだけど、それも時間の問題ね」
「すげーなー、スーパーコンピューター」
「まずは携帯コンテナーを試作してみましょう」
デクスターは優輝のアイデアメモを持って自分の会社へ帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから1週間後。
「出来たわ!」
「はっや! うっそ!」
優輝は思わず叫んでしまった。こんなに早く出来るとは思っていなかった様だ。
一昨日デクスターが家に来て、この板の表面に1.2m四方の拡張空間のドアを取り付けてくれと言って来たばかりだったからだ。まさかそれから2日足らずで完成させてくるとは思わなかったのだろう。
拡張空間の深さは1.8m、大体日本のアパートの押し入れ位のサイズだ。優輝の構想ではその中に金属製のコンテナをはめ込み、取っ手を引き上げると空気圧バネと油圧ダンパーの力で、自動車のハッチバックのドアとか事務用チェアの高さ調整の様な調子で、コンテナが飛び出す仕組みを考えていた。
「ほんとよほんと! この通り」
デクスターはA5サイズのタブレット端末の様な黒い板を持ってやって来た。厚さは5mm程で本当にただの黒い板にしか見えない。
それを床に置き、表面のタッチパネルに掌を置くと、表面に赤い魔法陣の模様が浮かび上がる。
「これ、何かの魔法式?」
「いえ、ただのカッコイイ図案」
『掌紋を認証しました』
機械音声が流れた。機械音声と言っても、かなり人間に近いアクセントだ。
手を放すと、板の四隅に内蔵されたレーザーポインターから光の線が発せられ、床面に直径1.2mの魔法陣を描く。これもタブレットの表面に浮かんだ魔法陣の図案と同じなので、多分意味の無いただの図案なのだろう。
「意味なら有るわよ。コンテナを取り出す際の外の空間サイズを計測しているの。狭い所でコンテナが飛び出して来たら危ないでしょう?」
「ああ成る程、よく考えてるね」
「当り前よ、怪我でもさせたらすぐに訴えられちゃうんだから」
訴訟社会のアメリカあるあるなのだろう。デクスターの会社の法務部があらゆる変則的な使い方を想定し、安全性を考えて再設計したそうだ。こういう点は異世界堂本舗には全く抜け落ちている。デクスターの会社に任せておいて良かったと
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