第209話 リビングルーム
「居た! あそこ!」
「みんな怪我も無いみたいだわ。良かった!」
とはいえ、爆発の衝撃波を
手前にデクスターとアリエス、そして100m位向こうから野木とサムエルがフラフラになりながら歩いて来た。
「バリアが球形というのは衝撃を受け流すには良いのだけど、こうして吹き飛ばされると何処までも転がって行っちゃって問題ね」
野木もサムエルも目が回ってしまった様で、その場にへたり込んでしまった。デクスターとアリエスはこの絶対障壁を使いこなしている様で、自らの操作で回転を止める事が出来た様だ。
少しの時間休んだら、皆歩いて帰れる位には回復したので、元の場所へ戻ろうとしたのだが……
「ああっ! こちら側からは窓が見えない!」
「「「「な、なんだってー!」」」」
慌てて飛び出したものだからすっかり忘れていた。窓は外からは見えない仕様になっているのだ。これでは元の場所まで戻れない。こんな砂漠の中に水も持たずに放り出されては、死有るのみである。
「ふふっ、ちょっと脅かし過ぎよ」
そう言うと
「ここから帰りましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あーあ、酷い事になっちゃってるわね」
部屋に戻ったデクスターの第一声はこうだった。
「みんなお帰り」
「ただいま、ロデム、未来、
「いやー、ひどい目に遭った」
「これ、片付けるの大変そう」
「大丈夫だよ。どうせ全部壊れちゃったんだから、全部廃棄しよう。部屋も一から作り直そう」
「今度は行き成りリビングじゃなくて、リビングの手前に空間通路専用の
「えー、つまんなーい! 行き成り来てあんた達のイチャイチャしている所を邪魔するのが楽しみだったのにー」
「やめろ!www」
全員リビングを出て、狭いダイニングキッチンへ移動した。ここは8畳程度の広さのリアル空間である。こっちで爆発しないで良かったと優輝は安堵した。損害額はリビングの方が桁違いな訳だが、こちらで爆発していたらご近所へ人的被害が出ていた可能性が有るからだ。
優輝はリビングへ入る扉の隣にもう一つ扉を設置して、そこへ新しいリビングを作る事にした。
元の方を残しているのは、警察に現場検証をさせるためだ。それが終わればまとめて廃棄する予定である。
前のリビングはちょっと広すぎたので、今度は50m × 30m、その隣に20m四方のエントランスロビーを作り、そこへマギアテクニカ社や神管へ通ずるドアを設置した。その他各地への移動用ドアもこのエントランスロビーの壁へ設置する。
「ま、こんなもんかな」
内装はまだだが、取り敢えず部屋の大まかな設計は完了したので、優輝は皆の居るダイニングキッチンへ戻った。
「優輝お疲れ様。はいこれ優輝の分」
尤も、流石に自分の家が爆破されるなどとは思っても見なかった訳だが……
「一体誰の
「ロデムもあなた達も、この件に手出しは絶対にしないでね」
『うっ…… 何もしないよー』
「しないよー」
「しないよー」
こいつら、絶対に何かしようとしてたなと
その時、野木の携帯が鳴った。
「はい、了解しました」
そして、野木は皆の方へ向き直った。
「犯人が確保されたそうです」
「はやっ!」
「犯行の動機や爆発物の種類についてはこれから解明して行く事になります。それから、現場検証の為に今こちらへ警察車両が向かっていますのでご対応をお願いします」
「すっげー仕事の出来る女みたいじゃん」
「あら、出来るのよ? 私」
サムエルが茶化して来たのだが、何を当たり前の事を言っているの? という風に野木は受け流していた。
爆発は拡張空間内で起きたので、外には炎も煙も音も一切漏れてはいない筈なのに、警察のこの異常に速い初動は何なのだろうか?
一つの理由は、その場に神管の野木が居た事。彼女のスーツには、カメラとマイクがセットされている。彼女の前での発言は、全て神管の本部へ送られ、記録される。爆発の瞬間には神管は既に把握していたのだ。
もう一つ、この家というか、花子お婆ちゃんの家と敷地内に点在する異世界堂本舗の各施設全ては、神管の監視対象になっている。以前は公安警察や内調によって監視されていたのだが、今では警察権や諜報活動の機能も併せ持つ『神管』に統一されている。異世界堂本舗の各施設を取り囲む4つの拠点から、1年365日24時間体制で監視され、接近する人物、車両、配達物、電話回線、ネット通信回線と、あらゆる外部からのアクセスは記録されているのだ。当然、爆発物を届けた配送業者もリアルタイムで識別され、身元が確認される。
「それで、速攻犯人捕まってるのか」
「動機はなんなのかしら? 私達、恨まれる様な事はしていないつもりだけど」
「まあ、金持っているだけで恨んで来る奴はいるからなー」
確かに学生の頃、
そうこうしている内に警察やら鑑識やらが大勢やって来て、リビングの中を調べ、床や壁にマークをしたり写真を撮ったり、部屋中に有った物を細かな破片も含めて全部持って行った。部屋の中はまるで掃除機を掛けた様に、というか、本当に掃除機を掛けて細かな埃まで掻き集め、全部持って行ってしまった。
それらの証拠物をテレビで見る様に、段ボール箱に綺麗に整頓して詰めて、ぞろそろと段ボール箱を抱えた人が玄関から出て行き、次々と外のトラックの荷台へ積んで行く。
後日現場検証に犯人を連れて再度来るそうなので、現場には立ち入らない様に言われた。ドアには例の立ち入り禁止のテープを貼って封印していってしまった。
外には物々しい数の警察車両が停まっているので、ご近所さんの人だかりで出来てしまっている。花子おばあちゃんの農園からも何事かと大勢の従業員が出て来てしまった。
「こりゃあ一体どうしたの?」
花子おばあちゃんが心配して声をかけて来てくれたので、これこれこういう事があったと説明したら物凄く驚いていた。確かに、爆発音も煙も出ていないのに、警察車両ばかり集まって来ていたら、何事かと思うのは当然だろう。ご近所さんには事情をかなり柔らかく説明して、お騒がせした事を謝罪して回った。
「
「あなたも色々大変ねぇ」
デクスターが他人事みたいに言った。
その頃、アメリカのデスバレー国立公園では、家具の破片やら女性物の下着類やらが散乱しているのが発見され、ちょっとしたミステリー扱いになっていた。
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