第202話 リモート結婚式?

 「はじめまして、桜の父の武夫です」

 「母の萌子ともこです」


 『お、おい、本当に桜の子供なのか? 向こうさんも女の子じゃないか』

 『異世界では女の子同士でも子供を産めるのねぇ』


 テレビ画面に映っている、赤ん坊を抱いている女の子を見て、小声で夫婦でひそひそ話。ご両親、絶賛混乱中。


 「はじめまして、シーラの父親のヨエルです」

 「母のウーラです」


 『ちょっとちょっと、サクラはどこにいるの?』

 『俺に聞いてもわかるもんか。あの布の裏に隠れているのか?』


 こちらも混乱中。

 まず、不思議な謎技術で布に人が張り付いているのが理解できない上に、その布の中の人と会話しているのも理解できないようだ。

 会話はもちろん直接は通じないのだが、ユウキとあきらのスマホを通して音声のやり取りをしているので、自動的にリアルタイムで現地語に翻訳されている。


 「あのー、この世界ではないという事は、私達は一生孫を抱く事が出来ないのでしょうか?」

 「あ、抱けますよ」


 ごもっともな疑問と質問だが、ユウキは即答した。あきらは、ユウキはもうちょっと慎重に考える事を学んだ方が良いと思った。赤の他人をホイホイと世界間移動させるのは、少し危険なのではと懸念しているからなのだ。それで取り返しの付かない事になった事は無いのだけど、いつも心配になる。


 「シーラさん、ちょっと向こうへ行ってこよう!」


 ユウキは、赤ん坊を抱いたままのシーラを手招きして、家の外へ出て行った。するとそこから1分もしない内に、プロジェクターの映像の中に二人の男性が現れた。服装はどう見てもさっきのユウキとシーラなのだが、二人とも男だ。赤ん坊の性別は良く分からないが、おくるみはさっきまでシーラが抱いていた赤ん坊の物と同じだった。


 「この子が、桜とシーラさんの子供……」


 シーラさんから赤ちゃんを抱っこさせてもらった萌子ともこさんが、笑顔になった。


 「どれどれ、私にも抱っこさせてくれ」


 武夫さんも赤ちゃんを受け取り抱くと、その体重を感じ、ようやく現実を認識して来た様だった。


 「可愛い女の子だ。きっと美人になるぞ」

 「リオは男の子ですよ」

 「赤ん坊も性別変わりますよ」

 「えっ、そうなの? あ、本当だ」


 シーラは赤ん坊のおくるみを捲って確かめた。世界間を移動すると性別が反転するというのは身をもって体験しているわけなのだけれど、正直ピンとは来てはいない様だ。


 「赤ん坊の内に性転換を繰り返していたら、体や心の成長に悪影響があったりしませんか?」

 「うちの子は何とも無いわね、ちょっと大人びているけど」

 「大人びているというか…… なんだろね、あれ。あはは」


 桜が心配している様に、幼児が歳不相応に大人びているというのは、実は心的に何らかのストレスを受けていて、そうならざるを得ない場合も無きにしも非ずなので、一概に手放しで喜べる様なものでは無いそうなのだが、優輝とあきらが笑い飛ばしていたので安心した様だ。もっとも、あの子達は普通の子供ではないわけだが……


 桜自身の体験から言えば、某アニメの山猫さんの幼少期みたいに、性別がコロコロ変わる事によって心が歪みそうな感覚は無く、寧ろ楽しいと言うか、お得と言うか、自分をもう一段上の方から俯瞰で見ている様な感じで、割と楽しんでいる雰囲気が有る。それを受け入れる事によって、かえって世界が広がっているのではないかとさえ思えたのだ。


 「あちらの親御さんとは私等は一生会う事は出来ないのかい?」

 「うーん、何しろ異世界ですからねぇ…… 難しいかな」

 「でも、桜は何度も行き来しているんだろう? なら私達だって」

 「人が気軽に宇宙へ行ける様な時代になったら、もしかしたら可能になるかも知れません」

 「はー…… そうですか……」


 桜のご両親は大層がっかりしていたが、今の所異世界間を移動するのは、優輝ただ一人の能力に頼っている状態なので、そうそう無制限に赤の他人を移動してあげるのはリスクが高すぎるのだ。それを解禁してしまうと、必ず管理しきれなくなるのは目に見えている。

 良く知らない人間を移動させれば、予想外の行動をされて事故が起こる可能性も否定出来ない。結局、良く知っている間柄で、信用出来る人間でないと危険なのだ。

 それに、個々人の連絡手段や位置情報、生命を守る為のバリア等の特別な装備も一人一人に用意しなければならない。費用面でもかなり負担になっている。つまり、異世界堂本舗の従業員やその関係者、またはデクスターの様な共同研究者で大金持ちとか、自分で費用を負担出来、尚且つ自分の事は自分で責任を取れる人間しか連れて行けない事になる。かなり制約が大きいのだ。

 だから、気軽にシーラを連れて来てしまった優輝をあきらは、ちょっと心配していたのだった。


 「それで、桜はどっちに住むつもりなんだ? その前に結婚式はどうするんだ?」

 「えっ? 私は地味婚で良いかなー。籍入れるだけでも良いけど……」

 「それはいかん! けじめはちゃんとしないと、あちらの親御さんにも申し訳立たん!」

 「そうよ! お願いだからそれ位の事はさせて頂戴! そうですよね! シーラさんのお父さん!」

 「え? あ、そうですなぁ……」

 「ほらっ! あちらもそうおっしゃっているわ!」


 シーラの父親は、急に自分に同意を求められて、何だか良く分からないという感じで咄嗟に返事をしてしまった。

 そもそも、あちらの世界では戸籍という物が存在しない。だから、異世界から来た桜やオーノヒロミ、大陸から連れて来た子供達を勝手に住まわせたところで何処からも怒られる事が無いのだ。

 だから、結婚式をして籍を入れるという話にも、何を言っているのか良く分かっていなかった様だ。

 あちらの結婚とは、近所の人や友人を呼んで、結婚しましたというお披露目をして宴会パーティーをするだけなのだから。


 「と、いうわけで、結婚式というのは文化の違いでややこしくなりそうなので、披露パーティーを日を改めて、またリモートで行うという事で、よろしくお願い致します!」

 「そうなのー? 桜のウェディングドレス姿を見られないのが残念でならないわ」


 両家でそれぞれパーティーを行い、それをリモートで中継する。その披露パーティーをもって結婚式とする事になった。主役の桜とシーラは両方を行き来して挨拶をするという事で両家納得してもらう事になった。


 「あのね、あちらのご家族の為にお土産を用意したから持って帰ってね」

 「おかあさん、紙おむつとかプラスチック製品は、向こうの世界には環境センターなんて無いんだから駄目だよ」

 「それじゃ、私達はあなた達に何もしてあげられないじゃないの!」

 「いいえ、お父さん、お母さん、今まで育ててくれてどうも有り難うございました。このご恩は一生忘れません。私は異世界でもきっと幸せになります」

 「一生の別れみたいに言うんじゃないよ、まったく。ぐすっ……」

 「そうよ、もうっ、この子ったら急に、泣きそうになるじゃないの。うう……」

 「そうだね! どうせ仕事で行ったり来たりするから、直ぐに帰って来るね!」

 「全くこの子は、台無しだよ……」


 親子三人、肩を抱き合って涙ぐんでいた。シーラもちょっと涙が出ていた。


 「ところで、ちょっといいですかー!?」


 良い雰囲気だったのに、それを破る様にオーノヒロミの声が響いた。


 「あの、さっきから画面の端っこに見切れているんですが、それ、私の両親じゃないの?」

 「ああ、そうだった。どうせリモートで顔合わせするのならと思って、呼んでたんです」

 「ちょっと、父さん母さん、さっきからチラチラ気になってしょうがなかったわ!」

 「あのー…… どちら様?」

 「何言ってるのあなた、弘和に決まってるでしょ!」

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